MISHIM POTTERY CREATION×PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会
<座談会の参加者>
MISHIM POTTERY CREATION 土肥牧子
株式会社ユープロダクツ 代表取締役 平子宗介
PRODUCTS STORE 店長 長山晶子
インタビュアー・編集者 笹田理恵
撮影 加藤美岬
産地の座談会に続いて、MISHIM POTTERY CREATION のデザイナー・土肥牧子さんのものづくりの現在地について伺いました。東京生まれの土肥さんは、多摩美術大学、東京藝術大学大学院でデザインを学んだ後、(株)イデーに入社。店舗の内装、インテリアデザイン全般を担当しました。退社後、結婚・出産を経て、MISHIM(ミシン)を設立。2016年に陶器部門を「MISHIM POTTERY CREATION」として独立させ、美濃を中心に窯元の技術を活かしたものづくりを展開。ブランド設立以来「将来、アンティークとなっていけるもの」を目指して活動を続けています。
今回は、MISHIMのものづくりの視点にフォーカスを当てた座談会を開催。産地への思いやものづくりにおける葛藤、そして「幸せ」に対する向き合い方やアイデンティティなど土肥さん自身の在り方についてもお聞きしました。
【産地のものづくりにフォーカスをあてたイワツキさん×MISHIMさんの座談会はコチラ】
イワツキ×MISHIM POTTERY CREATION×PRODUCTS STORE たっぷりな座談会
たっぷりな座談会】
偶然性にトライしたことで、陶器の仕事が面白くなった
平子:土肥さんは、独立前はイデーさんで働かれていたんですよね。
土肥:イデーを退職後、自分一人でできる仕事としてMISHIMを始めました。その後、陶芸作家の友人と何か一緒にやろうと思い立って。
長山:やきものに興味があったんですか?
土肥:ぶっちゃけると、やきものや器はほとんど興味がなかったんです。だから、友人との取り組みで、形を作ったら素焼きが入って、次に釉薬をかけて……みたいなやきもののプロセスを初めて知りました。彼女は陶芸教室もやっていたので、多種多様な釉薬や土を使えたから、釉薬に関してもマットや艶、かけ落とし、銅釉などもそこで勉強できました。
長山:そこで、やきもののものづくりに興味を持ったんですね。
土肥:私もデザイン画だけをパスするだけではなく、実際に手も動かして勉強して、彼女がろくろを挽くところも見ながら面白さを感じるようになりました。そこで学んだ時間が自分の中で大きなスキルになっています。素材に対してのある程度の知識が入った上で、作り手さんとお話ができるようになったのはすごく大きい。
他の素材をやるチャンスもあったかと思いますが、なぜやきものにフォーカスされたんですか?
土肥:それも本当にたまたまですよね。自然と道が開いていったのかな。最初にものづくりを取り組んだ作家が友人だったから、いろんなことを試せたのは大きい。1つ、2つでも試作をいっぱい作ってくれたし、いろんな質感をやらせてくれたし、そういう意味でやきものの大変さも面白さも同時に入ってきた。
長山:いろんなことを試せた経験は大きいですね。
土肥:土や釉薬はコントロールが難しい素材で、不確定要素と向き合っている仕事だと知ったら複雑で面白いなと思いました。いろいろな人との取り組みの中での違いも面白かった。
平子:そこを面白がれるのが土肥さんらしいです。
土肥:あとは、「手放す」というのもありだと思い始めたところから陶器の仕事が一層面白くなった。最初は、きれいに揃った形で出してほしいし、鉄粉も飛んでほしくないと思っていたけれど、3、4年経った頃、多治見の3RD CERAMICSさんとの取り組みで偶然性にトライしたんです。
長山:3RD CERAMICSが立ち上がったばかりの頃ですね。
土肥:「偶然性」って偶然にお任せするってことじゃない。全てにおいてなるべく偶然に任せない準備をしていくんだけど、土や釉薬が流れた跡、火や湿気とか…ギリギリまでコントロールしようと思うけれど、できないものがある。そこに価値を見出した。その挑戦を始めた頃から一気に面白くなりました。
コントロールしきれない不均一さはやきものの魅力ですが、売り場での基準が厳しくて弾かれることもあるのでは?
土肥:当時は個体差への理解がまだまだ及んでいませんでした。作家さんの商品はOKでもメーカーはダメと言われたり。これはいまだにありますよね。うちは作家でもなく、メーカーというのも怪しいという立ち位置でやっているのも面白さの一つ。だんだんお客さんもバイヤーさんも価値を見出していて、「一個ずつ違うのがいいんですよね!」と言ってくれる人がめちゃくちゃ増えました。
たっぷりな座談会】
「なぜ、つくるのか」という葛藤に向き合いながら
ものづくりで譲れないこだわりはありますか?
土肥:「私のこだわり」ではなく、「どこにこだわれるのか?こだわる意味があるのか?こだわったら面白い?」を作り手の意見を聞きながら進めてきたこと。一人で進めない。私よりはるかに良い判断ができるという意味では窯元さんにパスできていると思います。
平子:土肥さんがやきものに対する理解が深いからこそ。
土肥:例えば、最初に出した形から変わっていることもあります。マグの取っ手の形状も、初期のデザインから変わっているんですよ。でも、こっちの方が作りやすいんだろうなって思えてくる。たぶん5年前は私も「形が違うんだけど」と言っていたと思う。でも、剥がれやすいから接着面が増えているんだな、と考えながら許容できるようになった。
相互の視点を持っているからこそ、信頼が生まれますね。
土肥:実は、この変化って意外とお客さんも嫌じゃないはず。キレキレのデザイナーでこだわって……という姿勢も大事ですけれど、誰もこだわっていない1mmの違いとか、誰の得にもならないことにはこだわらない。無理なく気持ちよく。うちのものづくりはすごく変わってきています。
長山:すごく柔軟ですよね。
土肥:「私はここにこだわりがないけれど、こだわったら面白いの?こだわる意味があるの?」というのも作り手さんの意見を聞きながら進めてきたかな。
平子:決して諦めではなくて、お互いが継続的にやっていくための知恵ですね。経験値によって生み出されたノウハウだと感じます。
土肥:こだわりは、素晴らしいことでもある。でも、ものづくりの過程、素材、現場を知っていくと作り手の状況が見えてくる。私がどうでもいいことをこだわると、ものを作る人への負荷がかかるんだと分かった。
長山:そこまで見えている人は多くないと思います。
土肥:それと同時に、誰かが幸せを食い潰すような世界はよくない、もっと誰もが幸せになるように、と考えられる時代になっていますよね。
平子:どっちでもない穴埋めみたいな商品への需要は激減しているし、スタンダードな商品は大手の販売店に行けば全て揃う。こういった需要の変化が産地の現状を表していると思うと、MISHIMさんの取り組みはすごく希望があると感じます。
土肥:だって、人口は減っているしね。人口が減って、これからどんどん格差も広がっていく。そういう中で、大量生産の窯元さんにとってはすごく厳しい現実がここから待っているんじゃないかなと思う。流行りのデザインの後追いをするだけでは大手企業に勝ち目がない。だからこそ自助努力というか、土を開発する、釉薬を開発する、技法を作ってみる……そういうことがこれからの窯元さんの救いになるのかなと思う。
平子:未来を見据えてものづくりをしているんですよね。
土肥:とはいえ、新しい物を作るときはいつも葛藤しています。「世の中に物が溢れているのに、これ以上マグカップを作ってどうするんだ!」って。でもやっぱり人間って物を作る衝動があるんじゃないかな。ジレンマはすごくあるし、私がカップを作らないことでゴミがなくなる、とも思うんですけれど、愛されるもの、捨てられないものを作ることで窯元さんの仕事や技術を守るとか。そういう言い訳探しをするわけですよ。どうやって作ることに価値を見出すか、という視点はいつも持っています。
毎回「なぜ作るのか」という葛藤と向き合っているんですね。
土肥:言い訳をいくつか探して「これならいいんじゃない?」を拾い上げて作っていくわけです。その葛藤の中で生み落とす1個、2個の真摯さをうまく伝えられたらと思うし、もっと作り手側がそういう視点を持って考えていくと「これは必要?」と感じるものが世の中から減ると思う。技術を残すためにマグカップを作ろう、だけじゃなく、もう一歩踏み込めたらいいなと思いますよね。
たっぷりな座談会】
いつかアンティークになる物を目指して
愛知県瀬戸市の窯元・イワツキの技術に出会い、StiLLシリーズが生まれました。なぜプレートを作り始めたんですか?
土肥:楕円がやりたかったので型でやってみようと考えました。動力ではできないもの。なおかつレリーフとかデコラティブなもの、繊細な形を作りたかった。すでに額のイメージはあったので、土に繊細なレリーフを彫る額縁みたいなプレートにしたら面白いなと。
平子:デコラティブなリムが特徴的です。壁かけのような美しさがありますよね。
土肥:日本は絵画の外側(額縁)をシンプルにするけれど、西洋の額縁は、中の絵を盛り上げるために外にも盛るという考え方なんです。何かを引き立たせるため外を盛るという西洋的感覚をヒントに、レリーフをつけた額縁のようなお皿に作ってみようと思いました。
長山:展示会では、StiLLのプレートに何度かサラダを乗せて使用感を見てもらっていました。
土肥:StiLLはナイフチェックも入るんですよ。でも、それがかっこいいと思うんですよね。ヨーロッパの蚤の市で並んでいる食器も釉薬がかかっているけれど、ナイフチェックが入っているんです。それもかっこよかった。StiLLを家でだいぶ使い込んでナイフの跡や色シミが入っているけれど全く嫌な感じがしない。でも、その良さをまだまだ伝え切れていない。
平子:急須などでも、自分が使った跡が残っていくという視点があります。変化を味わう切り口で伝えられると温かさが感じられるんじゃないかな。
平子:MISHIMさんは、展示会への出展をきっかけに始まるお取引が多いと思いますが、どんな基準でお取引されるかどうかを決めているんですか?
土肥:長い目で見てくれるか、ですね。お店の方から「こんなにたくさん売れないかもしれない」「ちょっと長い目で見ていただけると」と言われることが多いんですよ。でも、こちらも長い目でうちの商品を動かしてもらえるとすごくうれしい。もちろん気に入ってくれることが大事ですけれど、お店の大きい・小さいよりも長い目でお付き合いしてもらえるかどうか。
平子:すごく誠実ですね。
土肥:あと、作家ものしか扱わないと断られることもあります。その線引きを本当に崩したい。確かに、作家さんは個人で発信して、自分がどれだけどんな風に作っているかをSNSで上げているし、イベントとかでも会えるし……っていうストーリーが丸見えになっているんですよね。作家ものだから手間をかけている手作りの商品だと思い込んでいる人も多い。窯元さんの器は手作りじゃない。機械でガチャンガチャンと作っているだけだと勘違いしている人が大半なんじゃないかな。その人たちを対象に、お店が物を売らなきゃいけないのだとしたら、作家さんの物で縛りたくなる気持ちは分かります。じゃあ、何が問題なのかというと、たぶん商社さんです。
平子:そうなんですよね。僕もそう思います。
土肥:窯元さんは自らそういうストーリーを発信することに長けてはいないわけですよ。それはお仕事じゃないですし、そんなことをやっていたら何千、何万という数の物を作れない。作家さんにできること、窯元にできることには違いがあり、共通点もあるはず。商社さんが、もっと窯元さんや生産背景を伝えられると消費者も理解できるし、食い違いはなくなってくるんじゃないかな。
たっぷりな座談会】
仕事が、自分のアイデンティティになっている
土肥さんは、未来の目標はありますか?
土肥:もっともっとわがままにものを作る。いまはやっぱり売れないと困るし、売れるための努力が必要じゃないですか。もうちょっとその努力をしなくていいのかなって。この先、どれだけ「自分の好きなものづくり」に携わっていけるか。
平子:MISHIMをずっと続けていくのは大前提ですか?
土肥:すでにMISHIMのスタイルは認知していただいているので、冒険は別のところでやろうかなと。MISHIMは今の理念で続けていけるといいですね。
土肥さんにとって仕事はどんな存在ですか?メリハリや切り替えのスイッチはありますか?
土肥:仕事は私のアイデンティティなんです。母や妻、娘とかいろいろな役割があるけれど、自分に立ち返られる場所が仕事。だからテレビを見ていたり、ご飯を作っている時でも「あれ、いいかも!」と思いついたり、逆に悶々としすぎて眠れなくなったりすることも。それでも、仕事は自分の中で、自分が自分たる基盤ですね。
平子:いい話ですね。
土肥:そこまで自分と仕事がシンクロしているからビジネスライクにできないし、楽しくないと辛いんですよね。
仕事が自分のアイデンティティだと言えるのは、MISHIMとしてやっていることに嘘がないからですよね。
土肥:そうですね。一致する努力をしてきた。今も違うと感じた部分は手放して、切り離している。自分の気持ち以外の要素で新しい仕事を始めるとすごく辛くなってくるのでブレないようにしています。
長山:強い意志を感じます。
土肥:最近、娘に「自分の幸せに対して貪欲であれ」と話しています。彼女は「逆じゃない?誰かの幸せのために頑張るんじゃないの?」と言うけれど、自分が幸せじゃない限り誰も幸せにできない。自分の幸せの基盤をしっかり作ることは、仕事、パートナーの選択、誰かを支える意味でも大事。どういう自分が好きか。どんな自分でいることが幸福かをいつも考えています。
平子:幸せを待つんじゃなくて、能動的に取り入れているんですね。
土肥:そうですね。自分が何に、どんな風に幸せを感じるかは自分にしか分からないし、人によって全然違うけれど、自分オリジナルの幸福感、その感覚を死守したいと思っていて。ものづくりを仕事にできるのは、物を作るのが好きな人にとって本来すごく幸せなこと。へこんだりもするけれど、これを仕事にできていること自体が喜びです。