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PRODUCTS STORY

イワツキ×MISHIM POTTERY CREATION×PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会

01 デザイナーのものづくりを支える、産地商社のしごと
02 形の歪み、左右対称じゃないもの。鋳込みならではの表現を伝える
03 最後は責任を持つからやってみて、と言える
04 商品に、日本の産業技術を支える金額が含まれている

<座談会の参加者>
MISHIM POTTERY CREATION 土肥牧子
有限会社イワツキ 岩附寿人
株式会社ユープロダクツ 代表取締役 平子宗介
PRODUCTS STORE 店長 長山晶子
株式会社ユープロダクツ 脇坂詩乃
インタビュアー・編集者 笹田理恵

撮影 加藤美岬

分業で成り立つ産地のものづくり。今回、座談会を行ったのは、愛知県瀬戸市の窯元・イワツキです。⽯膏型を使った鋳込み成形の技法を持つイワツキさんとMISHIMの土肥さんをつないだのはユープロダクツ。(これも商社の仕事のひとつ)

窯元が持つ技術や個性を知ることから始め、それらの更なる可能性を模索しデザインをする土肥さん。イワツキさんのものづくりへの好奇心と鋳込みの技術に魅了され新シリーズ「StiLL(スティル)」が誕生しました。鋳込み成形から⽣まれる装飾性と⼯業製品としての硬質さを兼ね備えた⽣地を、通常は仕上げには使わない下絵付け⽤の絵の具を前面にかけ流したものを焼き締めて仕上げたシリーズです。

美濃の産地に足を運び続けるMISHIM POTTERY CREATION のデザイナー・土肥牧子さんを中心に産地のものづくりについて話しました。

【イワツキ×MISHIM POTTERY CREATION×PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
01

デザイナーのものづくりを支える、産地商社のしごと

平子:僕たちが産地商社としてブランドのお手伝いをする取り組みは、本来は表に出す話じゃないんですが、PRODUCTS STORE 3周年というタイミングでMISHIM POTTERY CREATIONを通じて産地の仕事を立体的に伝えたいと考えています。兼ねてからユープロダクツはMISHIMさんのチームとしてご紹介いただく機会がありました。振り返ると土肥さんとは2012年に出会っていて……。

土肥:当時、うちは作家さんとのものづくりがメインだったんです。もう少し幅を広げたいと考えていたところで、窯元さんとつなげてくれる人がいるとユープロさんを紹介してもらって。

デザイナーのものづくりを産地商社がサポートしていることを知らない人は多い気がします。

平子:まず土肥さんとは、一緒にものづくりができそうな窯元さんを回りました。しかし、最初は本当に苦戦して……窯元さんにおける合理性の中で土肥さんのこだわりを表現しきれなかった。土肥さんもいろいろ工夫してもらったけれど思うような仕上がりに至らず、展示会を目指してギリギリまで粘ったけれどダメだった。

土肥:85%までは届いているけれど、「あとちょっと」がすごくハードルが高いと気付いていなくて。私は窯元さんに要求を伝えるだけ。窯元さん毎に異なる制作過程や量産に必要な体制など制作側の事情が理解できていなかった。

長山:その商品は世に出なかったんですね。

土肥:全然うまくいかなかったけれどネガティブでもなかったんです。うまくいかなかった後も平子さんが窯元を何度も一緒に回ってくれました。その中で「作家の代わりに作る窯元を探す」のではなく、面白いものが一緒にできる窯元さんを見つける方がいいと考え始めました。

その経験がMISHIMのものづくりの蓄積になっているんですね。

土肥:同じ美濃であっても、窯元やメーカーによって全く違う。技法や土、現場の空気も違う。その経験を通じて産地や窯元に対する見方が変わった。窯元に対する思い込みと違う現実が見えて、MISHIMの切り口が変わったと思います。

【イワツキ×MISHIM POTTERY CREATION×PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
02

形の歪み、左右対称じゃないもの。鋳込みならではの表現を伝える

その後、土肥さんは、土岐市駄知の窯元・兵山窯さんとfractal(フラクタル)を手掛けます。梅花皮(かいらぎ)とクラシカルな西欧の形を合わせたシリーズです。

平子:最初はfractalのケーキスタンドがすごく歩留まりが悪くて。それを兵山窯さんが試行錯誤して改善してくれました。土肥さんの熱量が伝わったのもあるけれど、そもそも兵山窯さんはそういうことを厭わない。窯元さん自身も面白がっている。

土肥:窯元さんにリスクがあるものは、なかなか作ってもらえない。でも、うちがやりたいことはたいていリスクが伴ってしまう。「ちょっと自分たちも試してみようか」と思ってくださる窯元さんだとうまくいくんだと分かってきました。イワツキさんもそうですよね。

現在はイワツキさんと鋳込み成形のStiLLを手掛けています。土肥さんがイワツキさんに何度も足を運んで、成形型の元となる原型を自ら作っていますよね。

土肥:型を使ったものづくりをするのが初めてで、まず原型師さんという存在を知りました。その技術に原型師さんへのリスペクトが生まれて。分業ならではのプロフェッショナルに感動しましたね。

岩附:鋳込みの型屋さんの割り型の技術もすごいからね。

土肥:原型を自分で作りたいと思っているわけではないけれど、私のイメージを伝える方法が見当たらなくて。スケッチで描いても平面なので、立体になったときのボリューム感や厚みがうまく伝わらない。せっかくイワツキさんで作るのだから、鋳込みならではの表現を伝えたい。わざと形を歪ませたり、左右対象じゃないもの。分かる人には分かる、遊びのようなもの。鋳込みでやる面白さを伝えたい。

現場に足を運んで、原型を削りに来る人は少ないですか?

岩附:そうですね。でも、見本を持ってきて「これやって」と言われるよりもずっと面白いですよ。

平子:型屋さん自体も減っていますが、継続性はどうなんでしょう?

岩附:いやー、危ないですよ。数年前に型屋さんの組合が解散して、個々には残っているけれど後継ぎはいない。釉薬屋さんも全部一緒だと思いますけどね。

土肥:本当に早く手を打たないと、ですよね。

岩附:何十年も前から言っているんだけどね。

平子:ものづくりに携わる人の技術は、決して時代の中で見捨てられる存在ではない。むしろ光が当たっていくべき。そのくらい奥深いし、やりがいや魅力のある仕事だと思う。

土肥:イワツキさんにトライしたいことを伝えて、いろいろ考えてくださった先に型屋さんのような職人がいる。そこが廃業してしまうとイワツキさんがいくら考えてくれてもできないことが生じてしまう。

長山:「5年前ならできたのに」と言われるケースも増えています。

平子:世の中にもこの状況を認識してもらって、物の価値観を伝える努力を我々がしないと。単純に対価が少なくて続かないという背景もあると思うので。

土肥:そうですよね。すごく儲からなくてもいいけど、子ども3人くらいは育てられるくらいの収入がある。仕事に誇りを持って子どもを育てていけるくらいのお金が回れば続くと思う。

脇坂:窯元さんは、皆さん自分のやっていることが当たり前すぎて、今までやってきたことに「どう価値をつけていくか」を考えるのは苦手ですよね。

岩附:そうですね。

脇坂:しかも、この業界は「真似されてしまうんじゃないか」という懸念点もあって、情報が行き届かないし、開示しないことも多い。例えば、イワツキさんの技術を他メーカーがやろうとしても絶対に真似できないと私たちは分かるけれど、渦中にいる人たちは不安に考えてしまうもの。この取材のように、ものづくりのストーリーや背景を伝えることが目的だとしても、閉鎖的になってしまう状況も多々あるはず。

土肥:そのジレンマは分かる。

岩附:うちは、ごく普通のものが苦手。左右対象なものを原型で作っても歪む。でも、それがうちの強みだし、そういったものを望んでくれている人の方がうちには合っている。そういう人に寄ってきてほしいですよ。

脇坂:器それぞれに個性があって、さまざまなことを感じ取れる中で、選び取れる喜びこそがやきものの面白さ。ぜひイワツキさんのものづくりに出会ってほしいです。

 

【イワツキ×MISHIM POTTERY CREATION×PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
03

最後は責任を持つからやってみて、と言える

今回、10月14日~29日まで開催されているMISHIM POTTERY CREATIONのポップアップは、産地のものづくりを紹介することがベースにあります。

土肥:陶器ができるまでがどれだけ大変なことか。作り方も違えば、膨大な工程がある。産地で育った人はある程度知っているかもしれないけれど、一般のお客さんは知らないことばかり。それをMISHIMでは紹介しきれていなかった。

平子:僕もいまだに、ものづくりをする皆さんの真摯さに感動します。合理性や商売から見たら「その手間、僕だったら絶対かけない」と感じることが平然と行われている。その真摯さに応えられる世の中であってほしい。

土肥:私は作家じゃない。でも、「これを作ってください」と窯元さんに言っているわけでもない。窯元さんの得意なものやアイデアを引き上げてMISHIMの形に持っていく。そこで私が無茶を言える理由は「うちが売るから」です。最後は責任を持つからやってみて、と言える。

ものを届ける覚悟と自信があるから、多少の無茶を言える。

土肥:そもそも「これをやってください」とパスするだけでは、ものづくりは楽しくない。それは家具や他のアイテムも同じだけど、どういう素材なのか、どうやって作っているのか……そういうものを知った上で話をしています。なおかつ「私自身もちょっと作ったことがあるし、なんだったら作ります」みたいな立ち位置だと、作り手とああじゃない?こうじゃない?と具体的なやり取りができる。

脇坂:自分でも手を動かしてきたからこそ、話せることがある。

土肥:さらに言うと、ここから先は私の判断より窯元さん、もしくは作家さん判断の方が確実にいいものになる、といった線引きもできる。例えば、高台や水差しの先の薄さっていうのは、数字で出してもほぼ意味がないと私は思っていて。作り手さんがどういう風に水切れを良くしたいとか、この土はどのくらいまでの技法が可能という作り手の感覚を私が教えてもらっている。そこで「じゃあ1ミリから1.5ミリかな」って言っても意味がない。こういう感覚の共有は、デスクワークで図面を描いて、「この色で、こんな形でお願いします」と伝えてもできないと思うんですよ。これは私のものづくりの中ではすごく大事にしている。こだわる部分は作り手と一緒に見つけていきたい。

土肥さんがそういった姿勢でいるから、窯元さんも面白がって手を動かしてくれるんですね。

土肥:面白くなるってことは、その部分を共有できないといけない。「白いものは白く出さないとダメじゃん」って言っちゃったらアウト。「ここまで差が開いちゃうとダメなんだけど、ここまでのムラは面白いよね」みたいなところが共有できるようになる。

平子:産地側の人間からすると、土肥さんとの取り組みによって窯元が持っているポテンシャルが引き出されていると感じています。ポテンシャルを持つ作り手でも、自分たちの編集では届かないものを引き出している。産地として資源や物価の問題もある中、自分たちの価値観を高く設定していくことが必須だと思うので、土肥さんの切り口は勉強になるし、作り手にとっても刺激になっていると思います。

土肥:窯元さん自身も「これしかできない」ではなくて、「これができる」という意識に変わってくんじゃないかな。自尊心というか……自己肯定感みたいなものですね。そういうことが外注さんに対するリスペクトにつながる。そこにリスペクトが生まれると対価を払わなきゃいけないじゃないですか。対価を払うということは卸値が上がる。私はその背景を理解しているから値段が上がってもOKだし、商品の上代に反映できる。でも、お客さんはストーリーを知らない。だから単純に「単価が上がっちゃった」ってなるんですよ。このストーリーをだからどのように伝えていくか。

上代を高くできないから、作り手に対する対価も上げられない。これは日本の賃金が上がらない状況に通ずる問題です。使い手に背景をどう伝えていけばいいでしょうか。

土肥:こういうインタビューがあることも大事。この前トークイベントをやったんですけれど、そういう場で直接お客さんとお話ができれば、ものすごくダイレクトに伝えられて響くんですけどね。どうやったらお客さんに理解してもらって気持ちよく買ってもらえるかをずっと考えています。お金を払うことにすごくポジティブになってくるとみんながウィンウィンになるわけですよ。でも、それを伝えるのがなかなか難しかったので、今回の企画を通して発信していきたい。

平子:窯元さんは、本当に手間暇をかけて作っているんだけど、それがあまりにも当たり前になりすぎていて、よくも悪くも自分たちの価値を高く売るという意識が希薄。僕らも単純に高く売るということだけでは解決しないけど、土肥さんとの取り組みが一つの切り口となる。そういうことも表現できたら面白いと思います。

【イワツキ×MISHIM POTTERY CREATION×PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
04

商品に、日本の産業技術を支える金額が含まれている

平子:産地ではまだまだ廃業が続くと思います。後継ぎがいても窯がボロボロで、投資をして続けるにはあまりにも先行きが不透明だと話す窯元さんも。やっぱり作り手に還元できるものを増やしていきたい。

土肥:いまの10 代、20代の世代は、私たちの時代よりも世の中に対して「未来がない」と感じています。まず大人が自分の仕事の範囲から変えていかないと。自分の周りだけでもいい。お父さんやお母さんが、自分たち以外の人や環境のことも考えて働いている、と子どもたちが感じられるかどうかが大切ですよね。

身近な人の働く姿が、若い世代や子どもたちの希望になってほしいです。

平子:美濃の産地はずっと「いまを食べることに一生懸命」だったと思う。「いま」を食べ続けた結果、掘り尽くして土が採れなくなったとか、外注さんが高齢で続けられないという状況に陥っている。そうなることはもう10年も20年も前から分かっていたけれど、未来へ投資できるほどの利潤はなかった。産地商社も、お取引しているメーカーさんが続いていくことの重要性があまり視野に入っていなくて、目の前の自分たちのビジネスが成り立つためのコンテンツとして窯元さんが作っているものを見ていた。

長山:窯元さんからは「これを〇〇より安く作って」という話ばかりだったと聞きます。

平子:より安く売れるものを仕入れできれば、自社の利益があるという状況は継続性がない。やっぱり適正な利益が取れるように、知恵を出して持っているコンテンツをより高く売ることに取り組んでいかないといけない。いまリアルに、こういう状況になっている。時代として情報がオープンになっているし、それぞれの役割をきちんと担いながら、関わる人が多い方が継続性はより担保される。

土肥:実際はそこにすごくお金が生じるけれど、考えることってタダでもできる。でも、結局は手を動かす人たちがいなかったら何も生まれなくなってしまう。だから、自分はできれば作り手から提示されたコストで仕事をしたい。提示されたコストが適正だと思って、それに対して誰もが苦しくない利益を取るにはどうしたらいいかなという値段を付けて売っていく。

ものを選び、買うことが作り手を支えることでもある。

土肥:実際に手を動かす人たちの支払い額も、もっと見直していかないといけない。いま、私が伝えられていないのは「商品価格には日本の産業技術を支える金額が乗っている」ということ。私は石を使ったジュエリーも展開していますが、石や金属よりも高いのは石の加工賃。でも、その職人の技術を使うことに私の仕事の意義がある。だけど、ジュエリーを販売するときにちゃんと説明しきれていないんです。これはすごく大きな課題だと思っています。器でも同じかもしれないですね。商品を見ただけでは説明しきれない部分をしっかり伝えていかないといけないと思う。

平子:やっぱり土肥さんしかできないことがまだたくさんあるので、我々もそれに関わりたい。土肥さんの活動は、ものすごく未来に大事な要素を含んでいると思う。