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PRODUCTS STORY

ふくべ窯×PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会

01 窯業のしごとと、ふくべ窯の両立
02 昭和初期に生まれ、50年前に途絶えた「精炻器」
03 コロナ禍をきっかけに風向きが変わる
04 報われなくても、つくりつづけてきた先に

<今回の参加者>
ふくべ窯 劒 雅明、真澄
株式会社ユープロダクツ 代表取締役 平子 宗介
PRODUCTS STORE 店長 長山 晶子
インタビュアー・編集者 笹田 理恵

撮影 加藤 美岬

岐阜県土岐市でふくべ窯として活動する劒雅明さん、真澄さん。昭和初期に生まれて約50年前に生産が途絶えたやきもの「精炻器(せいせっき)」を二人で作り続けています。

化粧土の重なり、ぷっくりとして温かみのある絵付けが特徴的な精炻器。その技術を残すために「精炻器研究会」としての活動も続け、クラフトフェアでもふくべ窯、そして精炻器のファンが増えています。

2023年12月24日(日)までPRODUCTS STOREで開催している「ふくべ窯展」に合わせて座談会を開きました。やきものとの出合い、劔夫妻が考える精炻器の面白さ、ふくべ窯と並行して産地で勤める姿勢。ふくべ窯と精炻器の魅力を、お二人との対話から感じ取ってみてください。

【ふくべ窯×PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
01

窯業のしごとと、ふくべ窯の両立

まずは、いまに至るまでの話を聞かせてください。お二人はどちらの出身ですか?

真澄 : 私は瑞浪市の出身で。

雅明 : 僕は岐阜県瑞穂市です。多治見市意匠研究所(以下、意匠研)に入るために東濃へ越してきて。

長山 : やきものに興味を持ったきっかけは?

雅明 : 僕はデザイン科の高校に行って、短大でプロダクトを学びました。そこでやきものの授業も少しあって、たまたま意匠研を見つけましたね。

真澄 : 私は瑞浪だからやきものは身近でした。小学校、中学校でも必ず陶器の授業があるし、周りにも転写の内職をしている人もいて。近所には陶芸作家の小栗寿賀子さんが住んでいて、娘の世代が就職難だと両親が寿賀子さんに話したら意匠研を勧めてくださったんです。私も元々絵を描くことが好きだったので興味を持ちました。

長山 : そういう経緯だったんですね。

真澄 : ささいなきっかけでしたね。生涯の生業にする感覚もなく入った感じで。

平子 : お二人は意匠研の同期ですか?

真澄 : いえ、夫は先輩です。

雅明 : 僕は意匠研で勉強した後に多治見の商社で10年ぐらい働いて。そこの倒産を機に転職して10年ほどメーカーで働き、昨年から東峰窯に入社しました。

平子 : ちなみに東峰窯に入社したのはどんな経緯だったんですか?

雅明 : 商社で勤めていた頃から東峰窯と商品開発の仕事をしていて、ずっと付き合いはありました。いつ頃からか「うちでやらへんか?」と誘ってくれるようになって、そこからずっと声をかけてもらっていたので、そろそろちゃんと返事しなきゃと話を聞いて入社しましたね。

【東峰窯さんとの座談会はコチラ】
東峰窯 × PRODUCTS STORE

東峰窯さんは、劒さんのふくべ窯の活動にも理解もあって。

雅明 : そうですね。何なら窯を使ってもいいと言ってくれている。

長山 : 真澄さんは版下の仕事もされているんですよね?

真澄 : そうですね。元々は私も量産のメーカーにいました。陶磁器業界を辞めて別の会社に移ったのが15年ほど前。やきものは好きだったんですけど……大量生産の現場では自分がいいと思ったものを作れないジレンマがあって。

平子 : 陶磁器業界に戻ってきたのは、やきものの魅力を感じたからですか?

真澄 : 業界から離れても精炻器はずっと作り続けていて面白かったですね。あるタイミングでお世話になっていたメーカーさんから声をかけてもらって版下を描く仕事に就きました。そこから私は家で版下を描き、夫は会社勤めをしながら、二人でふくべ窯の制作をしています。

【ふくべ窯×PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
02

昭和初期に生まれ、50年前に途絶えた「精炻器」

平子 : 僕のざっくりとした認識ですが、精炻器は昭和初期に生まれ、約50年前までこの地方に息づいていた技術。使われていない黄土を活用しようといった動きから技法も確立されたが生産は途絶えてしまった。そこから精炻器の技術を残すために「精炻器研究会」が立ち上がり、いまに至るという理解ですけれど。

真澄 : そんな感じですね。精炻器研究会は、祥風窯の曽根洋司さんとアダチノポタリさん、ふくべ窯の3組で活動を続けています。イベントでは「精炻器ラボ」として出店しています。

お二人が精炻器を知ったきっかけは?

雅明 : 美術館や資料館で知りましたね。市之倉さかづき美術館で展示も開催されていて。

平子 : 精炻器が共通のテーマとして二人の距離を縮めた……わけではないですか?そうすると座談会の記事的には収まりがいい。笑

雅明 : ……そうですね。笑 精炻器を作り始めたのは何年前だったかな。

真澄 : 20年くらい経つかな。

雅明 : そんなに経った?

真澄 : そんな経つよ。笑 私は、精炻器を知っている方から面白いよと聞いて、意匠研の先生に話したら「研究会があるんだよ」と教えてもらいました。私は研究会に入ったんですが陶磁器業界を離れることになったので、私と入れ替わりで夫が研究会に加わりましたね。

平子 : 20年以上も研究会を続けていらっしゃるのもすごい。精炻器の土を供給している会社はどれくらいあるんですか?

真澄 : 一社だけです。

雅明 : 昔の精炻器に雰囲気や素材を近づけた土をメーカーさんに頼んで作ってもらっています。年に1、2回ほど何トンか板で買って、生地は曽根さんに成形してもらっています。

平子 : 50年前の土をオマージュしているような。

真澄 : 山を掘れば当時の土はあるけれど掘る人もいないし、精炻器の土があると思われる場所の上に住宅が建っていて掘れない。

雅明 : なかなか精炻器をやる人が増えていかないですし。商業に乗せられるところまで至っていないので、大きいところを動かせるほど土も動かしていない。

美濃の産地では、皆さん精炻器を知っているんですか?

真澄 : いまも昔も知らない人の方が多いと思います。土岐の駄知や泉で作っていた方はいたんです。展示会をやるとおじいちゃんやおばあちゃんが「懐かしい。これやってたよ~」と反応してくれる。

平子 : なぜ精炻器は広がなかったんでしょうか。

真澄 : 化粧土の扱いも難しいし、デザインができないと作れない。

雅明 : あとは、土が生の状態で保管していないと加飾ができないんですよ。

平子 : 素材の扱いが難しい。量産に向かない理由ですね。

真澄 : あと歴史が微妙に浅いから骨董としての希少価値も生まれなかった。いろいろな理由から、これまではうまく広まらなかったですね。

平子 : お二人がやきもの業界に携わり、やきものの選択肢がたくさんある中で、精炻器に魅力を感じられていまに至る。精炻器の魅力は加飾の技術の奥行きでしょうか?

雅明 : 元々デザイナーをやっていて、絵付けのものが好きでした。上絵付けもやっていましたが、精炻器って泥で描くから全然扱い方が違うし、細い線も描けない……そのあたりが面白かったですね。焼き上げた時の質感も盛り上がって立体的になるし、重ねた色がだんだん残るんですよ。そういった点も全然違った。

長山 : 精炻器ならではの質感ですよね。

雅明 : あと、前職がパット印刷や転写を前提でデザインするものが多かったので、それを全く考えなくていいのも面白かったですね。

真澄 : 私もパット印刷の会社で勤めていました。

平子 : なるほど~、その反動はあるんですかね。合理性と離れたい、みたいな。

真澄 : うーん、そこまで難しくは考えてないけれど……やっぱり精炻器の柔らかくて温かい雰囲気に惹かれたのが大きいですね。

お二人で制作工程の分担はあるんですか?

真澄 : 二人とも同じ絵が描けるようにしています。どちらかが倒れても大丈夫なように。

長山 : すごい。だんだん同じものが描けるようになっていったんですか?

真澄 : そうですね。前は全然違うものを作っていたので。

雅明 : 一人でやるよりも「ああでもない、こうでもない」と二人で考えて作った方がしっくりくるものもある。

長山 : 新作のデザインも意見を出し合うんですか?

真澄 : 最初はそれぞれの叩き台で、こんな感じどうかな?と見せ合って意見を交わします。もはやメーカーと商社のデザイナーの打ち合わせみたいな感じ。

平子 : 二人ともに商業ベースの経験値があるのもプラスに使えますね。

【ふくべ窯×PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
03

コロナ禍をきっかけに風向きが変わる

ふくべ窯としての活動に加えて、夫婦ともに別でお仕事もされている。バランスをうまく取っているんですね。

真澄 : ふくべ窯としての仕事がたくさん頂けるようになったのが、コロナ禍に入るか入らないかの頃から。それまでは年に一度、さかづき美術館で展示をしても「人が来なかったね~」という感じだったんです。インスタは以前からやっていて、フォロワーさんから「オンラインで販売してほしい」と言われても、版下の仕事が忙しくて目一杯だったからできなかった。でも、コロナ禍でパタッと版下の仕事が止まって、まずいと思ってふくべ窯のオンラインに取り掛かってから、たくさんの人に知っていただけるようになりました。

長山 : それまではクラフトフェアにも出店はしていなかったんですか?

真澄 : ちょっと出てみようかと言い始めた時にコロナ禍になってしまって。クラフトフェアもなくなったからオンラインを始めました。目の前の「どうしよう」を越え続けていたらこうなっていましたね。

平子 : コロナ禍が、ふくべ窯を知ってもらうスピードを速めたんですね。

真澄 : もしコロナ禍がなかったら、皆さんの手元に届けられるようになったのはもう少し後だったと思います。

長山 : いまもオンラインでの注文がメインですか?

真澄 : 最初は主流だったんですけど、いまはオンラインの方に全然回せなくて。最近はイベントがメインになっています。遠方の方からは「オンラインに追加してください」と言っていただけるんですけれど……。

平子 : 作りながら販売、発送するのは大変ですもんね。

お二人は、どんな場面でものづくりの発想をインプットされているんですか?

真澄 : 良さそうな展示会を見に行ったり、雑誌でお互いが気になったものとかを話していますね。そこから「これをこんな風にできないかな?」みたいなアイデアが浮かぶのが始まりです。あとはざっくりと作ったサンプルを友人やフォロワーさんが見て、意見を頂いて形になることもあります。イベントで「こういうのが欲しいです」と言ってもらうことも。

長山 : このアイテムが欲しいです、とか?

真澄 : 「この形の別色がほしい」とか。具体的に「この部分が黄色のものはないですか?」と言われることも。それがたとえ私たちにはなかった考えでも、二人で相談して採用する場合もあります。

ファンの意見を柔軟に聞きながら。

真澄 : どうかな?と感じても一旦やってみる。最初は私たちがピンときていなくても、作ってみたら良かったこともあるので。

平子 : お二人ともが絵を描かれますが、どちらが描いたか分かるんですか?

真澄 : 私たちは分かるよね。実は、ちょっとタッチが違う。主人はきちっと描く派で、私は勢いで描く。ネコは私が描いています。

ご自宅でネコを飼ってらっしゃいますもんね。ネコが好きな人が描く表情だな~と思っていました。

真澄 : 一個一個、ネコの柄を変えてイベントに持って行ったらネコ好きの人が喜んでくれる。「うちの子に似てる」「うちはこっちだ!」みたいな。皆さんのネコ愛を感じます。笑

平子 : これが一つ一つ手描きだと思うとたまらないですね。甘すぎないデザインもいい。

長山 : 透け感があって、触るとぷくぷくしているのもかわいい。

【ふくべ窯×PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
04

報われなくても、つくりつづけてきた先に

コロナ禍では版下の仕事が減って、ふくべ窯に集中できる時間が確保できた。いまは版下の仕事が戻ってきている状況ですか?

真澄 : 前ほどではないですが少しずつ入っているので、窯を焚いて暑くて作業ができない時は版下の仕事をやっています。平日の夜は主人がここで作って、私は版下をやって。

長山 : すごいですね。土日も作っているんですよね。

雅明 : そう、土日がメインになりますね。

真澄 : でもまぁ……もう無理だって感じる日は休みます。笑

春や秋は、毎週のようにクラフトフェアがあるので忙しいですよね。

雅明 : イベントは半分旅行みたいなものだから。

真澄 : 現地のおいしいものを求めてクラフトフェアへ。笑

平子 : 作り手の皆さん、そう言うけれど。笑 クラフトフェアでは他の作り手のものもたくさん見られるし楽しいですよね。

真澄 : そう、すごく楽しいです。二人で行っているのでどちらかは回れるし、「あの人の作品すごく良かったよ~」と共有しながら。イベントにお声をかけていただけるのはありがたいですね。

雅明 : 売れなかった、報われなかった時代が長かったですから。

報われなくても続けてきたからこそ。

真澄 : そうですね。7,8年前までは年に一回しか窯を焚いてなかったので、貸し窯にしようかという話も出ていたくらい。

雅明 : 年に一回の展示のために焼く。いま考えると、それだとやっぱり上手にならない。やっぱり回していかないと技術が上達しないですね。

平子 : お二人に今回の展示のDMを見てもらいましょうか。

雅明 : DMすごいですね!いつもすごく力を入れていらっしゃる。

平子 : 僕たちはDMに並々なる情熱をかけているので……!いまは印刷しなくてもデジタルでいい、という側面もありますが、印刷するなら紙でやる意味を生み出したい。会社としての表現としても、ひとつの色になったらいいなと。

長山 : クリスマスシーズンなので、皿の上にナプキンを置いてお迎えしているイメージです。お皿の部分はふくべ窯さんの精炻器をモチーフにした立体感のある特殊印刷です。ナプキンに見立てた折り紙を開くと、真澄さんに書いていただいた直筆のメッセージも出てくるんです。

真澄 : なんて手のかかった……!

長山 : 手で折って貼る作業は、PRODUCTS STOREのスタッフがやってくれていて。

平子 : 差別化は手作業でするという。笑 作り手さんの熱量に見合うことはしたいですね。

これはふくべ窯さんの器に添えて贈りたくなりますね。

長山 : ふくべ窯さんの器は、クリスマスギフトとして選ぶ方も多いと思います。折り紙の中面に自分でメッセージとか書いてもらえたらうれしいです。

平子 : PRODUCTS STOREは2023年10月に3周年を迎えました。お店としてはまだまだこれからですが、この座談会やDMも含め、僕たちが思いを持ってご紹介を続けていく中でお店に共感してくれる人が増えたらうれしいです。

では、最後になりますが今回の展示でふくべ窯の器をどう楽しんでほしいですか?

雅明 : 僕たちの作業としても描いている時間が一番楽しいです。盛り上がった化粧土の元となる工程ですね。実際に手に取って、触って選んでもらえるといいんじゃないかな。

真澄 : 一つ一つの表情が違うので、そこを楽しんでほしいですね。

平子 : それはオンラインではなく、リアルな場での展示の醍醐味ですよね。

真澄 : それぞれのお気に入りを見つけてほしいですね。たとえば、鳥のマグカップも一羽一羽が違っていて、「この子がかわいいからこれにする!」という選び方をする人もいて。そんな感じで楽しんでいただけたらうれしいです。