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PRODUCTS STORY

器×お花
カトリエム 横田泰朗 インタビュー

01 お花で、街の文化を育てていく
02 器に花をどう生ける。横顔や後ろ姿のかわいい花たち
03 フローリストとして、好きを極める

<今回の参加者>
カトリエム オーナー 横田泰朗
PRODUCTS STORE 店長 長山晶子
インタビュアー・編集者 笹田理恵


2021年12月の村上雄一展から始まり、22年4月10日(日)まで開催される「花と花器展」で装飾を手掛けたのは多治見の花店「カトリエム」の横田泰朗さん。主に切り花を扱う店舗(多治見市白山町)と、観葉植物やガーデニング用品、世界各国の古道具を取り扱い、フラワーアレンジ教室も行う「カトリエム メゾン」(多治見市明和町)の2店舗を展開しています。横田さんがフローリストを志したきっかけや多治見で開業した当初の苦悩、そして器と花の関係や生活での取り入れ方についてカトリエムメゾンでお話を伺いました。

【器×お花
カトリエム 横田泰朗 インタビュー】
01

お花で、街の文化を育てていく

カトリエムメゾンは印象的な外観ですが、元々は何の建物だったんですか?

横田 : うちが入る前は何度も変わっていたみたいで、最後はレストランウエディングでした。ここはチャペルなんですよ。だから天井が高い。いまは隠してあるけど十字架もありました。

長山 : カトリエムメゾンを始められて10年くらいですか?

横田 : 白山町のカトリエムが19年経って、こっちは10年経ったぐらいですね。改装は1年以上かけて自分やスタッフで塗ったりして大変でした。

さらにさかのぼって、横田さんがフローリストになろうと思ったきっかけを教えてください。

横田 : 元々、実家が花屋でした。でも、継ぎたいとは思っていなかったから、手に職をつける美容師とかパティシエとか別の仕事を自分でやりたいなと。そんな中で東京に行った時に、たまたま造園で土を触る花屋さんでアルバイトをしました。そこは別に楽しい仕事ではなかったけど、その流れから大阪に移ってお花の学校へ行ったんです。その後、名古屋で師匠となる人に付きました。いま思えば親が花屋を営む姿を見ていたのはきっかけではあると思うけど、最終的には親とは違うスタイルでやっていますね。

長山 : 横田さんが師事されていたお花屋さんはどちらですか?

横田 : 名古屋のフラワーノリタケです。東京の仕事も多くて、そこに勤めている時は大きい仕事ばかりやっていました。テレビ局やデパートで、どれだけでもお花を入れていいぐらい予算のある時代で。

長山 : 若い頃の修行生活は、やっぱり大変でしたか?

横田 : お寿司屋さんとかの修行と一緒でお金は貰えないような時期があった。今の時代はそんな修行はないけれど、90年代はそういう空気でしたね。当時は厳しい生活でも練習でお花を買わなきゃいけないから、初めに花束を作って、ほどいて花束を何回も練習して、その後に短く切ってアレンジをしたり。厳しい修行だったけど師匠の生ける姿を見られるのが楽しかった。そういうメリットがあったから自分は辞めなかったと思う。

その後、生まれ育った多治見で店を構えられて苦労はありましたか?

横田 : 多治見でいきなりこういう雰囲気で始めちゃって……お客さんが来なかったですね。多治見で始めたら、もっと仕事がいっぱい来ると思っていましたもん。そしたら全くでした。親の花屋さんのお客さんが来てくれてもギャップが大きくて難しかった。最初の3年は大変でしたね。

長山 : 当時は、まだカトリエムさんの雰囲気が理解されにくかったんですか?

横田 : 僕が勧めても、それが良いと分からない人は多かった。茶色っぽい花を勧めても響かなくて、カラフルで派手な花束になる。店を続ける中で、自分たちが好きなものをいかにお客さんに上手く勧めて使ってもらえるよう促していかないとダメだと思えるようになりました。徐々に結婚式の依頼が入るようになって、会場装飾も定期的にやるようになりました。

長山 : お店に呼ばれるなど、外に出てお花を生ける仕事は少なかったんですか?

横田 : 多治見ではそういう仕事があると思っていたけど、全然でした。だから、当時は交通費が出なくても自分のやりたい仕事があれば名古屋に行っていましたね。ただ、うちのスタッフには「こちらがお客さんを育てていかないと」と、いつも言っていました。

自分たちで、街の文化を育てながら今に至るということですね。

横田 : 多治見が陶器の街だというのは分かっていたし、器を作るのであればそこにお花は絶対に必要だろうと思っていました。でも、自分が生けに行く仕事は無かった。その頃は違うお花屋さんで買っていて自分の店では買ってもらえてなかったんだろうなと、今は思います。開店当初は、器に生ける機会があまり無かったですね。

長山 : 横田さんの考え方にすごく共感できます。PRODUCTS STOREができた当初は、お客様から「陶器は買う物じゃなくて貰うもの」と言われることもあって。窯元のイメージを伝えるためにセレクトした商品では通用しないのかと、くじけそうになった時期もありました。

横田 : 確かに、この地元の人はそう思うよ。分かるけど……もっと気楽にやりなよとも思っちゃいますね。笑 仕事だからと緊張してやるより気楽にやった方がいい。

【器×お花
カトリエム 横田泰朗 インタビュー】
02

器に花をどう生ける。横顔や後ろ姿のかわいい花たち

今回のPRODUCTS STOREのカトリエムコラボの作家展、花と花器展は、多治見では珍しい企画でしょうか?

横田 : 今まで多治見でこういう企画は無かったですよね。大きい窯元で「展示会をやるからお花を持ってきて」ということはあっても、連続で作家さんの作品に花を生けて飾るという機会は無かった。だから、すごく楽しいしありがたいですね。

長山 : 12月に個展を開催した村上雄一さんが「お花とコラボした企画がしたい」とおっしゃったことがきっかけでした。それを他の作家さんにもお話したら「僕も花器を作るからコラボしてよ」という流れに。5ヶ月連続でカトリエムさんとコラボして、「花と花器展」を集大成とする企画になりました。12月から4月までお花が変わっていくので、お客様に来てもらってお店で季節を感じてほしいという思いも。

「作ったことのない大きな花器に挑戦できて新鮮だった」とインタビューで話されていたので、作家さんにとっても良い機会だったと感じます。この展示では、作家さんがどんな花器を作っているのか直前でお伝えする段取りでした。そこに難しさ、面白さはありましたか?

横田 : 僕は、直前に知る方が良いですね。書類や写真で器の見た目を頂いても、どう生けるのかは全く考えず行き当たりばったり。材料の大きさは見るけど、その場で変わる方が多い。事前に細かく教えてほしい、というフローリストもいると思うけど、自分は行き当たりばったりの方が面白みあっていいですね。あとは、器の展示だから器が目立つように、お花ばかりが主張することのないように生けました。

器と花の相性はどう考えると良いですか? PRODUCTS STOREの展示で花器を購入した人も多いので、ぜひ教えてください。

横田 : 器に対してたくさん花を入れるのが良いとは全然思ってないし、一本でも粋なお花はいっぱいある。器の口が広いと生けづらいけど、バサーッと倒して生けるのもあり。器と花の高さのバランスは考えた方がいいけど、「この器はこういう風に生けるもの」と決めなくていい。お客さんは「花器の口が広いからグリーンをいっぱい入れないと倒れちゃう」と言いますけど、倒したなら倒したなりの良さがある。ミモザだったら2,3本を垂らすだけでも良い。

長山 : そういう感性を養うと、もっと自宅でお花が楽しめそうです。

横田 : 10年くらいうちのレッスンに通っている人も自由にやってもらっています。最後に直すところがあれば直すくらいで作る形の決まりは無い。ただお花の魅せ方や顔の向きだけはアドバイスしています。みんな当然お花を前に向けちゃいがちですけど、全部が正面に向いていると圧迫感のある花束になってしまう。横顔や後ろ姿がかわいいお花もある。枯れて散っていく姿も本当は良いですけどね。

生き物として枯れていく姿、経過の美しさを愛でる感覚でしょうか。

横田 : そうだと思います。海外では散ったものをあえて取り除かないんですよ。散らして、「これがまた美しいでしょう」という感覚がある。海外は記念日とか関係なく普段からお花を買う文化なので、全く日本とは違いますね。まあ、お花の値段も安いから。10本単位を3種類くらい、普通の生活の中で買える程度の値段です。

長山 : 確かに、海外の家には各部屋にお花がアレンジしているイメージはあります。

横田 : 食費のように毎月の花代が確保されているのか分からないけど、日常的にお花屋さんにフラッと買いに行きますよね。日本でも1本や2本でも買いに来てくれるとありがたいです。

日本では、お花は門出の場面や大切な贈り物として登場することが多いので、お花は思い出と結びつきやすい印象です。

横田 : そうですよね。だから注文時には渡す相手がどういう人か、場合によっては仕事まで聞くようにしています。でも贈る側、日本人の男性はそこまでこだわらずに「お花であればいい」という人が多い。あと赤バラは定番ですね。結婚前に108本渡すのが流行っていて、一週間に2,3回くらい赤いバラを頼まれます。108本はものすごい量でめちゃくちゃ重い。だいたいその後、受け取った女性から「このバラをカトリエムさんでドライフラワーにしてもらえませんか」「こんなに大量なものを入れられる花瓶が無い」といった連絡が入りますね。注文時に男性にその旨を確認しますけど「その先は別に……」となりがち。贈る側は、花の持つ意味合いを渡したいわけだから、その後のことまで考えてない方が多いですけど、貰った人はどこに置こう……という状況になっちゃう。

ずっと側に置いておきたいほどうれしい花束でも、それを大事にできない状況だとフラストレーションが溜まりますね。

横田 : 本当にそうですよ。それでも、なんだかんだ赤バラは多いですね。だけど、基本的にはうちに置いて無いので。

長山 : 確かに赤いバラは見たことがないですね。

横田 : 事前に注文があったら買ってきますけど、基本は置いてないから(カトリエムの向かいにある)「バローさんの花屋さんに行くとありますよ」と勧めちゃいます。笑 逆にあちらに無い種類は「カトリエムさんに行ってください」と言ってくれる関係です。お客さんが喜んでくれるならそれでいいですし、バラが欲しい人にうちの草っぽい花束を渡してもたぶん喜ばないので。

【器×お花
カトリエム 横田泰朗 インタビュー】
03

フローリストとして、好きを極める

フローリストの1日は市場から始まるイメージがあります。どこに仕入れに行かれているんですか?

横田 : 名古屋の大須に市場があります。多治見は近い方ですよ。市場がある月・水・金は夜12時に多治見を出ますね。今はコロナの影響で材料が揃いにくい水曜の市場はガラガラです。やっぱり飲食店が営業していないから、お花の生け込みも休ませてほしいと連絡が何件もありました。

長山 : お花の仕事は朝が早くて体力勝負で厳しさもあると思います。カトリエムで働いている方をどう育てていますか?

横田 : まず、最初の面接で「2、3年目のこれから、というタイミングで辞められるのは嫌だから無理そうなら早めに辞めて」とハッキリ言います。ただ3年までは言われた通りのことをやっているだけの感覚だと思うから、楽しくなるには経験と時間が必要ですね。でも、全くお花屋さんで勤めたことがない素人でいい。手にクセがついていると教え辛かったりする。お花の作り方のクセを変えるのは難しいんですよ。

では、横田さんの思う「カトリエムらしさ」はどこに表れていると思いますか。

横田 : 自分が買ってくるお花を使えば「これカトリエムだよね?」と分かるはず。だから、仕入れですね。枝ぶりや曲がり方、色合いをどう選ぶかがすごく大事。あと3割は、スタッフの技術。お花の向きや材料の組み合わせですね。硬いお花と華奢なお花で合わせるよりも、硬いお花同士の方がバランス良いと思う。花屋さんごとにそれぞれの色があるから、アレンジを見ればどこの店かすぐ分かる。ちなみに師匠とは今でも市場で一緒だったりするから当然買うお花も似てくるし、あの人が使うお花は自分もかわいいと思いますね。

長山 : お弟子さん時代に培われた感性が大きいんですね。

横田 : それも強いし、その頃は携帯やネットが無い時代だから、師匠から「海外に行け」とすごく言われていた。休みがあったらフランス・パリを見に行けと。だから、時間がない中でも自分は毎回一週間くらい海外に行っていた。その経験は大きかったと思う。

プライベートでも、お花のインスピレーションを得られる場面はありますか?

横田 : 古着が好きなんです。だから古着の色合いや組み合わせからは浮かびますね。古着は独特の経年変化の色合いがあって、そこでピンときたりもします。ラブリーピンクは好きじゃないけど、服もお花もくすんだピンクが好きだし、昔から洋服が好きだったことも今につながっていると思います。

長山 : どこに古着を買いに行くんですか?

横田 : 大須も行くし、お店が「年代ものが出ました」って連絡をくれる。ゴルフとか何にもやらないから趣味が服と花くらいしかない。いや、花は趣味って言っちゃいけないですね、一応仕事なので。笑

ちなみに普段、器を見て「これならどう生けようか」とイメージすることはありますか?

横田 : 見るとやっぱり思っちゃいますね。良いのか悪いのか、職業病みたいな。木曜の休みも常に仕事のことを考えているから、ちょっとずつセーブしていかないと。

最後に、横田さんの今後の展望を教えてください。

横田 : 好きなものだけに囲まれていたい。それは理想ですね。最終的には、お金どうこうじゃなく食べていけるくらいでいい。いずれはお店を縮小していきたいです。

長山 : え、カトリエムさんのお花を買えなくなるのは困ります……!!

横田 : やっぱり、いろいろやるのは大変。最初の頃に苦労したから、いまも仕事は全部受けちゃうんですよね、スタッフもいるし。でも、そうすると好きじゃない仕事もやらないといけないから、それならば一人か二人でやれる店になることが最終的な理想だと思います。人と一緒にやるのもいいけど、後継者のようにお花を教えることも今まで十分やってきたから。小さく好きなものだけ置けるようなお店がやれるといいですけどね。

フローリストとして長く続けてきた中で横田さんが一番やりたい仕事、これだけはずっと続けたいと感じることは何ですか?

横田 : やっぱり生のお花を扱っていたいですね。今どちらかというとドライフラワーブームだけど、自分はあまりドライが好きじゃない。生で枯れていく姿、無くなってしまうものの方がお花としては好きなので……生花をずっとやっていたいですね。今の若い世代はウエディングブーケをドライで持つ人がすごく多いんですよ。ドライのブーケを何百個と出していますけど、でも本当の気持ちとしてはやっぱり生のお花を持ってもらいたいなぁって。そういうギャップは感じます。時代の流れだからしょうがないですけど。あとは枝物も生けていて楽しい。かわいいブーケも良いけど、枝を扱うのは楽しいですね。

長山 : お花にも流行はあるんですか?

横田 : ありますね。ただ生産者が追いついていかない。こちらが使いたい色があっても品種改良していくと今まで10本採れていた花が3本しか咲かなかったりする。それを市場で高く売っても買う人は限られる。でも、生産者の人たちに「こういうお花が使える」「曲がったものや破棄していたものを出してよ」と伝えるようになりました。たとえば、昔は枝ぶりがまっすぐの方が生けやすいと言われていて曲がったものは出荷しなかった。今は曲がっている枝のほうが良いんだ、と伝えています。

ちなみに、横田さんが特に好きなお花や植物はありますか?

横田 : なんだろうな……ワスレナグサとか。草っぽい野性味のあるお花が好きですかね。ただそういうお花は、花束の材料としては出てこないし水上げが良くない。雑草的なお花を店頭で売っても、お客さんの所では2、3日でくたっとなってしまいやすい。今はひそかに野草的なお花が流行っているのもあって、タンポポとかを品種改良で伸ばして花瓶に入れられる高さにする流れもありますね。あとは、一本一本の線が細いお花。線が細くて、か弱い感じのものが好きですね。

長山 : そういう雰囲気の展示も見てみたい。カトリエム × PRODUCTS STOREのコラボが毎年恒例になるとうれしいです。