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丸新製陶 × PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会

01 売れ筋商品を廃盤にして、方向転換をした理由
02 コロナ禍での窯の故障が、さらなるチャンスにつながる
03 産地を「美濃焼株式会社」というチームだと捉えたら
04 情緒を求めたくなる世の中で、ものづくりをすること

<今回の参加者>
丸新製陶有限会社 塚本誠吾
株式会社ユープロダクツ 代表取締役 平子宗介
有限会社studio point デザイナー 澤田剛秀
インタビュアー・編集者 笹田理恵

撮影 加藤美岬

岐阜県土岐市駄知町。どんぶりのまちとして多くの作り手が窯を構える地域で、1949年に創業した丸新製陶。三代目の塚本誠吾代表は愛知県名古屋市で生まれ、異業種から同社に入社。未経験からのスタートでしたが、陶磁器のものづくりに没頭します。そして、盛況な時代の最中で大量生産から脱却。現在も新たなものづくりへの挑戦を止めることなく、手掛ける器の幅を広げ続けているメーカーです。

2025年初夏、ユープロダクツのオリジナルブランド「EDITIONS」で丸新製陶による「decoboco & pikipiki」が販売されます。「たたき」という手仕事の加飾をシンプルな形状で表現した3サイズの器です。今回は、新作のデザインを手掛けたstudio pointの澤田剛秀代表も交えて座談会を実施しました。

売れ筋商品に対する廃盤の決断、コロナ禍での窯の故障といった丸新製陶のターニングポイント。ものづくりの姿勢と課題意識。そして、メーカー×デザイナー×商社が見据える産地の未来について改めて語り合いました。

【丸新製陶 × PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
01

売れ筋商品を廃盤にして、方向転換をした理由

平子 : 今回、ユープロダクツのオリジナルブランド「EDITIONS」で丸新製陶さんに新作を作っていただきました。商品の企画からデザインまで担っていただいたstudio pointの澤田さんも交え、皆さんで改めてお話できたらと思っています。丸新製陶さんの創業は1949年ですが、塚本社長で何代目ですか?

塚本 : 僕で四代目ですね。会社にしてからは三代目。妻の実家に婿養子として24歳で入りました。

丸新製陶で働く前は、何の仕事をされていたんですか?

塚本 : 僕はクルマなどを扱う貿易の会社の営業マンでした。やきもの業界との接点は全然なく、陶器の「陶」ってどういう漢字だっけ?というくらい。笑

平子 : 何も知らない状態から始まったけれど、現在につながったわけですよね。

塚本 : きっと何かを作ることが好きだったんでしょうね。最初は営業として働き始めたものの売りたいものがなくて。丸新の商品に自分が好きなものがなかった。

当時の丸新製陶は、どんな商品を作っていたんですか?

塚本 : 業務用のどんぶりや小鉢。ノベルティーや景品も多かったですね。当時は作るアイテム数も限られていて縦に売れる時代だった。毎日同じものの繰り返し。

平子 : 作れば売れる時代ですね。

塚本 : 基本的にちょっと変わったものを触りたい、見たいという性格なので、好きなものがないから売りたくないんです。自分の好きな器を作りたくなったんですね。

平子 : 当然、器づくりに対する経験値はなかったわけですよね?

塚本 : そう、形状は作れないので、まずは面白い釉薬や釉薬の掛け合わせから考えていきました。

現場を見ながら手を動かし、できるところから自分のオリジナリティ、やりたいことを見つけていったんですね。

塚本 : ある時、僕が社長に黙って売れている商品を廃盤にしたこともありました。めちゃくちゃ怒られるかと思いきや、案外怒られなかった。その代わり僕はプレッシャーがかかるので、廃盤商品の売上と生産量をどうにかするべく必死にサンテナを持って飛び込みで売って回りました。

平子 : 売れ筋商品を廃盤にした理由は、今後を考えた時にその商品の主力ではダメだと考えたからでしょうか?

塚本 : そう、うちの中で一番安価なものでした。これをやっていると抜けられないと思って。

平子 : 当時はトンネル窯だから窯を回していく上でもありがたい商品だし、必要枠になるんですよね。

塚本 : 当時は、普通に何万個という注文があったんですよね。いまでは考えられない。

平子 : トンネル窯の特性もあるけれど、いまだにそこから脱却できないメーカーもあります。でも、先代は頼もしかったでしょうね。廃盤にしても窯が回るように何とかしたわけじゃないですか。現在の丸新さんにつながる面白い経緯です。

塚本 : 先代には好きにやらせてもらっていました。工場の中で喧嘩はするけれど、ダメだと言われてもやっていましたね。笑

【丸新製陶 × PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
02

コロナ禍での窯の故障が、さらなるチャンスにつながる

2020年にトンネル窯が壊れたのも転機かと思います。コロナ禍のタイミングでシャトル窯に切り替えたのは大きな決断ですよね。

塚本 : 当時は本当に大変で、お客さんにもご迷惑をかけました。でも、僕にとってはトラブルが最大のきっかけ。大きく変わるチャンスでしたね。すでに入社していた二人の息子には「トンネル窯を修理して続けるか、窯を変えるか」と相談しました。息子がシャトル窯という選択をしたので、そうだなと。シャトル窯だと生産個数が限られるので、いまの金額で作っていたら売上が下がってしまう。だから、作るものを変えていかなくてはいけない。商品を変えることでお客さんも変わる可能性がある。当初は大変でしたが、いまやっと少し先に明るい光が見えてきた。もうちょっと頑張ろうという状態です。

平子 : トンネル窯は流れ続けるものなのでトラブルがあるとすごく大変。窯の中で台車が倒れることもある。「トンネル窯は命がけだった」という話もよく聞きます。

塚本 : 24時間、窯を焚いているのがプレッシャーですよね。ずっと火が点いて動いている。だいたいトラブルは夜に起こるんですよ。いまは火が止まる時間があるので、ストレスはなくなりましたね。

平子 : 僕が印象的だったのは息子さんが入社されるタイミングで、取引先に丸新製陶についてのアンケートを出されたじゃないですか。外部の意見を踏まえて、強みを見直すという趣旨だと捉えたのですが、どんな経緯だったんですか?

塚本 : 僕は、自分で丸新を変えてきたという自負があるんです。親父の代と比べると商品やお客さんが全く違います。息子たちが入ってきて彼らが動かしていく前に、お客さんから見て丸新がどんな風に思われているのかを再度確認して、改善して伸ばそうと。お客さんの言葉が成績だとしたら、丸新の成績を見てどうするのか?を考えようという思いからアンケートを出させてもらいました。

平子 : その姿勢が丸新さんの在り方を表していると思いました。誰でも出来るけれど実践する会社はなかなかない。謙虚ながらも成長を目指す姿勢が印象的でしたね。

塚本 : 「プロダクトに対してプラスアルファを作ってくれる」というご意見が僕としてはありがたくて、今後もずっと大事にしていきたいと認識しました。

平子 : 見本市でも限られた会社しか新商品を提案していない。丸新さんは毎回新しいものを開発しているからすごい。

新しいアイデアを思いつくのは、どんなタイミングですか?

塚本 : 何かを作っていると枝葉が出てくる時がありますね。狙ったところよりもいいぞ !みたいな枝葉。意識していないけれど、いつもどこかで食器や陶磁器のことを考えているんでしょうね。毎朝5時に目覚めちゃって工場に来ていますし。

澤田 : 好きですね~。笑

塚本 : 好きですね~。やることもないですもん。笑

澤田 : 打席数ですよね。打席に立てるのがセンスだと思います。5時に起きて、一人で楽しそうにいろいろ試しているんですね。

平子 : ショールームにサーフボードもありますが、最近は行っていないですか?

塚本 : 名古屋出身なので愛知の伊良湖まで行っていました。高校1年の夏から始めて30歳ぐらいまで。最近は全く行ってないですね。

平子 : いまの趣味は何ですか?

塚本 : 家内と食事に行くことぐらいですかね。行ったことのない店に行く。名古屋なんて多治見に行くのと変わらない意識で行きますね。

平子 : 仕事へのフィードバックも考えて食べに行かれるんですか?

塚本 : そうですね。あと、新しいものを試したら必ず最初に「これどう?」って家内に聞いています。忖度かもしれないけど、いいんじゃない?と言う方が多いですね。笑

チャレンジする社長の背中を押してくださるんですね。

平子 : いい関係ですね。素晴らしいです。

【丸新製陶 × PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
03

産地を「美濃焼株式会社」というチームだと捉えたら

平子 : 僕は美濃で生まれ育ち、家業や地元の縁があってやきものの仕事に就きました。だからこそ、いろんな世界を見たけれど、やきものが好きでものづくりをする人にすごく興味があるんです。

塚本 : 物を買って売るだけのビジネスには魅力を感じない。ユープロさんみたいにオリジナルの商品を開発するならやりたいと思える。アレンジしたいですね。

平子 : 作ることに対するリスペクトはどんどん湧きます。だからこそ価値を適正にしないといけない。まだ現実とギャップがありますが頑張りたい。丸新さんの新作から手間をかけてでも価値を高める姿勢を感じますが、美濃の産地に対する課題意識はありますか?

塚本 : 僕たちが窯を構えた美濃は全国でも有利な場所にある。それに甘えて、いままでは原料を粗末に使ってきた。その姿勢を見直さないといけない。そして、僕たちは陶器を通じて、従業員さんに人間としても家計の面でも成長してもらわないといけない。そのために良いものを適正な価格で出す必要があると思います。

平子 : 美濃はどうしても適正な価格の基準が市場寄りで、売れる値段という考え方が強い。澤田さんとも「主導権を取り戻すことが商社の大きな役割」だと話していました。

澤田 : 本当にそう思います。

平子 : ざっくりいうと、いまの単価を全て倍にするくらいじゃないと未来がないという感覚がある。それくらい薄利でものづくりをしている。塚本社長が気付いている課題をもっと産地で共有していかないといけない。

澤田さんからは、美濃の産地はどう見えているんでしょうか?

澤田 : 工業か工芸かでいったら、工業が残っていく産地だと思うんですよね。美濃のポジションであり、果たすべき役割が必ずある。確かに出口の値段は考え直さなきゃいけないけれど、大量に作れるという強みのニーズもあるし、私たちの生活を支える基盤でもあるので、その点もすごく大事なことだと思います。

平子 : 強みとなるものづくりを大事にしながらニーズのある商品を出していきたい。今回、澤田さんの力を借りて自分たちが欲しいものを考えながら、丸新さんが取り組まれていた「たたき」の技法を施した「decoboco(デコボコ)」と貫入釉の「pikipiki(ピキピキ)」を生み出しました。

塚本 : たたきは、化粧土にサンゴ状の粗いスポンジで色をのせた技法です。今回は黒土で、青色の下地は呉須をひいています。茶色の部分はサビです。

平子 : 丸新さんの魅力と澤田さんの提案が掛け合わさって新しい価値が生まれ、他と比較されない商品になりました。EDITIONSはメーカー名を入れ、取り組み自体がメーカーさんのプラスになってほしいという気持ちで続けています。澤田さんは今回の商品に対してどう感じていますか?

澤田 : EDITIONSとしての表面は窯元さんの表現。デザインは裏側。癖がないかたちを「窯元さんの方でどうぞ」といった気持ちで出しています。今回は一歩踏み込んで、長く通わせていただき解像度が高い状態で丸新さんを見せてもらいました。社長がチャレンジされているたたきの技法が活かせて、うまく噛み合ったかなと。

いつ頃から、たたきという技法はあったんですか?

塚本 : 20年くらい前は商品として作っていました。それが何かの拍子に出てきて、新たに試作していたものを平子社長が引っ張ってくれました。釉薬だけで表現する商品が続いていたんですが扱う土が増えたこともあって、いろいろ遊びで試していましたね。

平子 : 一旦やめてしまうと、技術がなくなるのは本当に早い。生産ラインの中で多かった手描きも、いまでは描けないものばかり。

澤田 : もったいないけれど皆さんやめちゃいますよね。原料の土を3種類も扱っているメーカーも少ないですよ。

平子 : 産地全体でどんどん手間をかけなくなっています。技術が進んで効率化され、再現性が高まったけれど、いまは手間をかけた技術が求められている。ものづくりと効率化にギャップがあったことが、産地が競争力を減らした一因。自分たちで手放したもの。

技術が継承できる価格と生産量のバランスが大事ですよね。売れるかどうかも含めて。そして、自分たちのアイデンティティを持つメーカーさんに勢いがある印象もあります。

平子 : 間違いないですね。いまだに商社のフィルターでしか市場を知らないメーカーも多いけれど、みんながいろんなチャネルを持つことが今後はすごく大事だと思います。

澤田 : どうしても市場からのリアクションを気にする部分もあるけれど、お客さんの要望を聞いているだけだとご飯は食べられない。これは陶磁器業界に限らないことです。ある程度、「こういうことができる」「僕たちはこういうものが好きです」という主張しないとものづくりをする意味がなくなってしまう気がする。「何のためにやっているのか」という理由とちょっとした主張が、それぞれの窯元さんにあっていい。そこを平子さんと編集したいですよね。

平子 : 本当にそうですね。

澤田 : 産地が「美濃焼株式会社」だと考えたら、もっとコミュニケーションを取らなきゃいけない。機能がバラバラな分業体制で、明らかにコミュニケーション不全が起こる仕組みじゃないですか。いまは大量生産の時代ではなく、「どんな価格で、何を誰に届けたらいいのか?どう売る?どの程度の量が適切なのか?」を一緒に考えなきゃいけない時代だから、プロジェクトごとにチームが生まれるのがすごく大事かな。

平子 : 結局、お客さんまで含めたチームだと思うんですよね。いままではお客さんの無理難題をこなす側面もあったけれど、そもそもチームだと思えば課題は共有できる。お客さん、作り手のそれぞれが抱える課題を擦り合わせてお互いが成り立つものづくりをしたい。我々もお客さんも疲弊して、「これって誰のための仕事?」という状況になってしまうのは本末転倒だと思う。

【丸新製陶 × PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
04

情緒を求めたくなる世の中で、ものづくりをすること

丸新さんは若いスタッフさんもたくさん働いていらっしゃいます。どのような経緯で入社される方が多いですか?

塚本 : 元々は多治見市陶磁器意匠研究所への求人から入社した人が多いです。独立や結婚、地元に帰るという理由での退社はあっても、少しずつ残ってくれるようになっています。若い方が残ると次に入ってきた人も長く勤められる雰囲気になる。今後もっと環境を改善が必要ですが、少しずつ雰囲気が変わっているように感じますね。

平子 : 卒業された方が作家活動を続けるときに丸新さんの窯を使わせていたり、休み時間に従業員さんの作品もお客さんに紹介したり……そこにも社長の人柄がでている。

澤田 : それはなかなかできないですよね。

従業員さんを、個人作家としても応援しているということですか?

塚本 : 好きな人だったら応援したくなりますよね。それは従業員でも同じ。

平子 : ちなみに、塚本社長がリスペクトしている人はいらっしゃいますか?

塚本 : 僕は、何故こんな仲がいいの?というくらい兄弟仲が良いんです。兄は「組み飴」をオリジナルで作る会社を立ち上げています。元々、僕の在所は名古屋の菓子問屋でした。ショッピングセンターが増えて、まちの駄菓子屋が少なくなると問屋も淘汰されて事業がしぼんできた時に、兄が商材を考えて会社を始めました。弟の僕が冷静に見ても、すごいと感じています。

平子 : ご兄弟ともに商売のDNAがありますね。やはりアップデートできる会社は強みを生かせるということ。業界は違っても同じですね。

平子 : 最後に、社長からユープロダクツに対するご意見をいただけたらうれしいです。

塚本 : 僕は取引先であっても、人を見て取り組みたいかどうかを考えています。やっぱり付き合いたい商社さんには全力投球をしていきたい。平子さんは第一印象から好印象で、話すうちにもっと信用できると思った。だからこそ、うちの全てをお見せできる。いい人には、いい人がつながってくると思っているので、僕もその一員になりたいですね。

平子 : 期待値で見ていただき、力不足でお返しできているものが少ないですが、今回の取り組みをきっかけにさらにご期待に応えていきたい気持ちです。また、息子さんの代でも貢献していきたい。我々に全てを任せてくださいとはとても言えないですが、丸新さんの次世代に対して魅力があるかたちとして続けられたら本望です。お約束はできませんけれど……。

澤田 : 約束できないんですか?笑

平子 : 明日は我が身なので分からないですけれど。笑 こういった話がモチベーションになります。それに、やきもの業界はこれから見直されていくはず。いまからIT業界で新しいビジネスを始めるより圧倒的に勝てるチャンスがあると思う。時代に求められる様相はあると思うんですよね。

澤田 : そうですね。いまは物を作っている方が強いかもしれない。

平子 : AIにとって変わられないことだし、やっぱり息苦しい時代の中でみんな情緒を求めている。土という人間の本能に訴えかけるものは情緒の塊じゃないですか。

澤田 : 今後も塚本さんにはいろいろチャレンジしてもらいたいです。食器だけじゃなくていいと思います。

平子 : 今回の座談会で、さらに頑張ろうという気持ちを改めて持たせていただきました。新商品も大事にアウトプットしていきたいと思います。