¥11,000以上のお買い上げで送料が無料

シリーズから探す
シリーズ 一覧
ブランド

PRODUCTS STORE

PRODUCTS STORY

ま工房 × PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会

01 ものづくりに転向し30歳で独立。葛藤しながら作り続けた7年
02 チャンスを掴むきっかけと、ものづくりに対する遊び心
03 ま工房の原動力は楽しさ。 作って焼いて儲けて、楽しく暮らす
04 グッドデザインでリーズナブルなものづくりを、未来へつなぐ

<今回の参加者>
ま工房 牧田 亮
株式会社ユープロダクツ 代表取締役 平子宗介
PRODUCTS STORE 店長 長山晶子
インタビュアー・編集者 笹田理恵

撮影 加藤美岬

岐阜県土岐市で制作をしている「ま工房」。陶土や磁土を使って、動物やだるまをモチーフとした器を展開しています。くすっと楽しい気持ちになる器たちは、洒落がきいていて気持ちが明るくなるものばかり。特に迎春アイテムの子守り犬シリーズは、PRODUCTS STOREでも毎年大人気のアイテム!
ま工房代表の牧田亮さんは東京出身。サラリーマンとしての仕事を経た後、土岐に移って作陶を始めます。やきものを志したきっかけや世に出られなかった下積み時代のエピソード、ま工房の未来に向けたあり方について伺いました。「作家ではないから表に出なくていい」と話す牧田さん。そのため集合写真のお顔は似顔絵とさせてもらいましたが、その考えにも器に対する捉え方が含まれています。ま工房のものづくり、そしてハードな仕事を続けるなかで何を大切にしているのか? 牧田さんの熱く、やさしさ溢れる思いの一端をお届けします。

【ま工房 × PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
01

ものづくりに転向し30歳で独立。葛藤しながら作り続けた7年

平子 : 牧田さんと知り合ってから6年くらい経ちましたね。牧田さんは、どこかに所属しているわけじゃないから全然知らなくて。うちの社員から近くに面白い作り手さんがいると聞いて工房を訪れて、ユープロ本社のすぐ近くでこんな人がいるんだと驚きました。ネットでも牧田さんのストーリーが出てこないのは意図的ですか?

牧田 : そう、作家じゃないから作り手が見えない方がいいと思っているの。

平子 : なるほど。「ま工房」と名乗っているのもそういった理由からですよね。今回はま工房の成り立ちやストーリーを届けながら、作り手としての考え方、未来の話をお聞きしたいです。

牧田 : ま工房の商品として世に出ていきたいよね。そうすると長く商売ができるから。サラリーマンを辞めたのは、ものを作って残っていくのが素敵だなという思いがあったから。そういう仕事がいいなと思って。

平子 : 初めは東京で、コンタクトレンズのメーカーの営業をされていたんですよね。

営業の仕事を始めた頃は、ものづくりをやるとは考えていなかったんですか?

牧田 : いや、大学の頃にも土いじりをしていた。普通の四大だけど陶芸部があって。卒業してから知り合いの縁から品川のギャラリーに出入りするようになって、吉田明さんという七輪陶芸を広めた作家さんの奥多摩の工房にもついて行くようになった。吉田さんはすごく豪快な人で「お前はサラリーマンやってんのかよ、やめちまえよ」って言われたり。ものづくりの仕事も楽しそうだなと見ていた。仕事はうまくいっていたけれど入社3年ぐらいのタイミングでやきものをやってみようかなって。ダメならもう一回戻ればいいと軽い感じで。

平子 : そこから、やきものを仕事にする方法の選択肢を探された。

牧田 : 九谷や京都、瀬戸や笠間、益子、有田といろんなところへ行って、自分に経済的な状況と合っていたのが瀬戸の窯業訓練校だった。 卒業後は、多治見の黒岩卓実さんの工房で1年間お世話になった。

長山 : そうだったんですね。

牧田 : 黒岩さんは一年の半ばのタイミングで働くみんなに「来年どうするんだ」って聞いていて、「1年で辞めて自分でやります」と言ったら「おう、お前はそうしろ」って。そこから半年働かせてもらいながら自分の工房を探した。

長山 : 最初の工房も土岐だったんですか?

牧田 : そう、土岐に50坪ワンルームの広い工場跡が見つかった、大家さんが一角に8畳の部屋も作ってくれて、そこで暮らした。お風呂は無かったけど、いまはもう無くなったABC銭湯に行っていたかな。

平子 : ABC銭湯、懐かしい !それは20代ですか?

牧田 : ううん、30歳で独り立ちしたからさ。当時はメンタルがやられそうだった。同級生や同期は結婚して家を建てている。自分は食えなかったから週3日、塾の先生として夜だけバイトしながら制作している。こんなところで何やってるんだろうって。

当時は、心が折れそうな瞬間もあったんですか?

牧田 : あるある。だって、誰が売れたとか、どこで企画展をやっているとか風の便りで耳に入る。どうやったらそんなところで展示できるのかなぁ……ってね。ただ、やめるのはもったいない。少しでも爪痕を残してからならいいけど、尻尾を巻いて逃げるのは嫌だった。37歳までやきものが全く仕事にならず、毎年正月にどうすっかな~って考えて。

平子 : 葛藤しながらも、作り続けていたんですね。

牧田 : 本当に苦しかったから二度とあの時代には戻りたくない。いまでも子どもたちにはこの話をする。うちの子たちは物心ついた時から貧乏の過酷さを知っているから物を大事にするよ。

平子 : その頃の経験が土台として、いまのものづくりに生きている。あの頃に戻らないぞという気持ちも含めて。

【ま工房 × PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
02

チャンスを掴むきっかけと、ものづくりに対する遊び心

独立してから7年間。なかなか芽が出ない時期を経て、風向きが変わったのはどんなきっかけだったんでしょうか?

牧田 : 古くからお世話になっているギャラリーの人たちに、たまたま同時期に「1万円台の土鍋を作りなさい」と言われたの。その頃、作家さんの土鍋が出回っていて、みんな3万や5万円だった。二人に言われるんだったらと1万円台で土鍋を作ってみた。

平子 : 面白いタイミング。

牧田 : でも、その時も全然売れなかった。鍋もダメかな~とか言いながら3年くらいちょこちょこ作っていたんだけど、茨城の店に置いていた土鍋を九州の問屋さんが見つけて、これは売れると思ったんだって。

長山 : すごい!

牧田 : その人が美濃で牧田という陶芸家の名前を探してみたけど見つからなかった。たまたま九州の問屋さんが黒岩さんと親しくて、そこでポロッと話したら「うちで働いていた子だよ」って。そこから、その問屋さんがドカッと売ってくれた。最初に200万円くらいの注文が入って、目玉が飛び出たよ。その頃、月に2万も稼げない男だったからさ。

長山 : それはうれしいですね。

牧田 : あとは、商売のコネクションを作りたかったからクラフトフェアにも出ていた。駒ヶ根のクラフトフェアに出た時、いまもお世話になっている山梨の器屋さんのオーナーが声を掛けてくれた。お金がなかったから甲府まで下道で通っていたよ。売れた分を精算してくれて毎月2万、3万を握りしめて帰ってくる。オーナーは家にお風呂がないのを知っているから、いつも帰りにお風呂券をくれたり、近くの店でご飯食べておいでと言ってくれていた。

平子 : いやぁ、プロセスの味わいが違いますね。物が売れることに対する実感が段違い。

牧田 : 本当に綱渡りだったよ。

平子 : でも、見つける人が必ずいる。

牧田 : そうだね。自分でいうのも何だけど、人に愛されなきゃいけない。上の人たちが声かけてくれた時に「僕は作家なので」と突っ跳ねる人がほとんどだったけれど、貧乏だったし、手びねりやろくろとか自分の技術で作ったものだったら何でもやりたかった。

平子 : 牧田さんは頂いたヒントをちゃんと実行するからすごい。

牧田 : それは黒岩さんに言われたの。「チャンスは君たちの頭の上でぐるぐる回っている」って。それに気付くか気付かないか。気付いても、掴めるか掴めないか。だから思い立ったらすぐ動かないと。待っていても仕事は来ない。

平子 : そこが牧田さんのプロフェッショナリズム。自分の飯の種を、ちゃんと認識できているところが強みだと思います。

動物をモチーフとする作品は、いつから作られたんですか?

牧田 : 最初はカチッとした蓋ものを作っていた。そこから「フタ」と「ブタ」のシャレで持ち手にブタを付けた。3個つけたら3匹の豚じゃん、と思い付いたり。あと、百貨店で一般のお客さんがお任せでご飯炊きをオーダーしてくれたから、せっかくだから蓋にブタ一匹、中にブタ三匹のものを作った。いまもそれがすごくよく出ている。だから、遊び心だね。

長山 : ま工房さんの器は、楽しい気持ちになるものばかりです。

牧田 : やっぱり使った時の面白さに惹かれる。元気が出るしワクワクするじゃん。例えば、ライオンのマグカップはタンポポ模様を付けることにしたり。

長山 : タンポポの英語名、ダンデライオンから?

牧田 : そう、言葉遊び。それも夜中に思い付いて、楽しくなって寝れなくなっちゃう。笑

器を通じて、ま工房さんがものづくりを楽しんでいる気持ちが伝わってきます。そして勝手ですが、動物マニアの方なのかと思っていました。

牧田 : 動物は好きだけど、頭にハコフグを乗せたりするほどマニアではない。笑 こういうのは仕事のネタなんだよ。前に乗り物シリーズも作ったりしていて。

長山 : トミカも必要な資料なんですね。

【ま工房 × PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
03

ま工房の原動力は楽しさ。 作って焼いて儲けて、楽しく暮らす

平子 : 牧田さんが見ている美濃の産地は、いまどんな景色でしょうか?

牧田 : 作り手が残っていかないのが残念。好きな作家さんも継ぐ人はいないと聞く。ここまで続けたのにもったいないよね。ま工房は商売として長く売れるものを目指したい。うちは手作りだけど、誰がやってもそのうちできるようになるもの。だから、ものが残っていけばいい。自分の身内じゃなくてもいいけど、誰かやれる人が続けていけたらいいな。

平子 : もったいないと思う作り手がなくなっていくパターンが圧倒的に多いですね。

牧田 : いまは直販を始める窯焼きも出てくるじゃん。それだけのマンパワーがあればいいけど商社の機能は失われがち。餅は餅屋だよ。うちは小売りはやらない。商社は、商社としてがんばってほしい。うちは、うちとしてがんばるから。

平子 : そうですよね。頼りになる商社が何社もあるといい。

牧田 : 周りが売れているのっていいじゃん。自分だけ抜きん出て売れたいという欲はない。美濃は元気いいよね、と思われた方がいい。

平子 : 目指したい未来像ですね。

牧田 : 生き方としては日々お金を稼いで、子どもを育てて家族で楽しく暮らすのが目標。作って焼いて儲けて、楽しく暮らす。

平子 : とにかく一貫して、牧田さんは楽しそうですもん。

牧田 : 楽しくなかったら、この商売をやっている意味ないし悲壮なの嫌じゃん。

平子 : 産業には悲壮的な感じが好きな人も多いですね。自虐的だったり。

牧田 : 楽しいのが一番いい。子どもが生まれてから余計にそう思う。親が楽しそうにしていると楽しいじゃん。例えば、親がご飯をおいしそうに食べてればおいしそうだなと思う。うちはこういう商売だから家族で毎日ご飯を食べられるけど、親と一緒に食べられない家庭もある。そうすると子どもの食が細くなったりすると聞くとね。うちは11月11日がラーメンの日に制定されたの。全部1で、ラーメンの麺だって。娘は一日3食ラーメンを食べまくって大満足。おいしいもの食べに行くとか特別なことじゃなくて、ちょっとしたことでも楽しいのがいい。どうでもいいことで楽しくしてあげる。

平子 : でも、牧田さんの楽しさの裏側はスーパーハードワークで支えられている。お正月も午前中しか休まない。家族旅行の時間だけ作られて、それ以外は起きている時間はずっと仕事をしている。

牧田 : 工房にいる時は年中無休だから。みんなと違って半日ズレてるの。朝まで仕事して昼まで寝る。

長山 : 趣味はあるんですか?

牧田 : 釣りが趣味だったけど子どもが生まれてからやめた。山岳渓流だから熊がいたり、崖があったりして危ない。いまは自転車だね。この間もパッと時間が空いて、家族4人の自転車を積んで諏訪湖へ行った。

長山 : 楽しそう……!

牧田 : 旅行に行くのもネタ探しなのよ。日常ずっとここでものを作って、ネットを見ていても全然刺激がない。やっぱり外に出た方がいい。旅先で見た色や思い付いたアイデアから次のものを作っていったりする。次は九州旅行。

平子 : いいですね !

【ま工房 × PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
04

グッドデザインでリーズナブルなものづくりを、未来へつなぐ

平子 : 何でも仕事に生かす牧田さんが、楽しいと思える仕事だと言えることが僕らにとってもすごく希望だと思う。

牧田 : 普通にやればいい。若い作家志望の人たちは、この仕事を特別な商売だと思っているんだと思う。特別じゃないよ、普通の仕事。お豆腐屋さんや本屋さんとかと一緒。作ったり、売ったりしてお金を儲けるのは一緒。

牧田さんはお子さんじゃなくても、ま工房のものづくりが続いていってほしいと先程おっしゃっていましたが、いずれは後継者を雇って技術を伝承していくこともあり得ますか?

牧田 : そう、それもいいな。最悪、ま工房として残らなくてもいいかな。例えば、うちの型や作り方を誰かが続けてくれて、その人の商品として出していくのもいいな。この間、デンマークのカイ・ボイスンのモンキーを買ったの。それを見たときに、やっぱりこうやって長年ものが残っていくのがいいなって思った。カイ・ボイスンはもうこの世にいないけど東洋の国の一角で輝いているのはすごく素敵。そうありたい。そこまでいけるかどうかは分からないけれど、心意気はそこ。

平子 : これだけ作ってこられたから、絶対残っていきますよね。

牧田 : でも、一時期ものすごく売れたものがコレクターアイテムになるのは嫌。いつの時代も作っている商品として残るのが一番理想。

平子 : 牧田さんの考え方と産地の窯元の仕事ってすごく親和性あるんですよね。

牧田 : やきものに興味ある人だけに売りたいんじゃない。やきものに全く興味ない一般の人に売りたい。その人たちが興味を持ってくれて、買える値段だったらどんどん新しいお客さんが入ってくる。それが理想なんだよね。だからうちが言うのは、グッドデザインでリーズナブル。誰が作っているかよりも商品が良ければそれでいい。このブランドのものが欲しいじゃなくて、欲しいものがたまたまこのブランドだった、というのがいい。

平子 : 牧田さんの工房に来ると、こんなに忙しいのにいつも楽しそうで、アイデアソースがたくさんあって、牧田さんはこんなに考えているのにもっと考えないと !と勇気づけられます。牧田さんで驚いたのはピアノの鍵盤の作品で、古いピアノの鍵盤の数に合わせていた。いい加減に作らない。存在するものとして成立している。

牧田 : ピアノ好きの人はすぐ分かるよね。

本物を知っている人も、納得いくものにする。

牧田 : ピアノの豆皿を作るときは、土岐のアウトレットにあるシルバニアファミリーまで走ってピアノのおもちゃを買ってきたよ。手間ばっかりかかるけど楽しいし、早く作れる仕組みや技術を身につければ上手くいくはず。1000個の注文が来てもだんだん上手になる。それが別の仕事に生かされる。

平子 : 引き続き牧田さんは楽しく作り続けることがテーマで、ま工房のものづくりが残っていく未来があったらいいなということですね。

牧田 : そうそう、だからこそ商社にがんばってほしい。地方の作り手は商社がないから大変だよね。いいものを作ってもなかなか世に出ていかない。

「地方」という表現は、やきものの世界での地方ってことですか?

牧田 : そうそう、美濃や有田は中心地。産地じゃない地域のこと。陶芸家って日本全国、津々浦々いるからね。

平子 : 僕らも良いものづくりが残っていってほしい。産地の機能として、もっとみんなが楽しめる産業になりうると思っています。

牧田 : やきものの仕事を子どもに継がせたくない人も多いですよね。子どもに継がせたいもん。子どもに継がせたいと思える商売にしたいな。