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PRODUCTS STORY

河内啓×PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会

01 逃げた先で出合った、陶芸という世界
02 「生活を支えるために作る」ことで生じる歪みと美しさ
03 多治見は、魔法使いと普通の人が混じっているようなまち
04 家族の影響を受けながら、変わりつづける

<今回の参加者>
陶芸家 河内啓
株式会社ユープロダクツ 代表取締役 平子宗介
PRODUCTS STORE 店長 長山晶子
インタビュアー・編集者 笹田理恵

撮影 加藤美岬

岐阜県多治見市で活動する陶芸家・河内啓さん。美しく穏やかな佇まいと素朴な表情で暮らしに寄り添う器を作っています。生活に馴染み、使いやすさには定評があり、PRODUCTS STOREでも幅広い層から人気が高い作品です。

静岡県静岡市に生まれ、愛知県瀬戸市で陶芸を学び、長く土岐市で作陶していましたがコロナ禍で多治見に移住。まちを楽しみながら暮らす啓さんを知るメンバーで、現在開催中の「河内啓展」に向けた座談会を行いました。

30歳で初めて土を触り、自分と家族の生活のために器を作り続ける姿勢。「美しさ」に対する考え方と在り方。そして、今回の個展をきっかけに本格的に始動するオブジェの制作について。中日ドラゴンズ仲間として親交の深い、ユープロダクツ・平子との野球談議はほどほどに……人間味あふれる河内啓さんの「視点」に触れさせていただきました。

【河内啓×PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
01

逃げた先で出合った、陶芸という世界

平子 : 初めて啓さんと出会った時、工房にオブジェが置いてあって「本当はこういうのもやりたいんだよね」とおっしゃったのをすごく覚えていて。

河内 : 10年くらい前だよね。平子さんにオブジェをやりたいって言ったけど、ユープロダクツは器がメインだから言っちゃいけなかったかな……とも思った。

平子 : いやいや、そんなことはないですけどね。笑

オブジェということは、昔から美術を志して勉強していたんですか?

河内 : 元々は美大を失敗しているからさ。でも、大学の受験勉強が嫌で。中学、高校では絵が上手かったから「絵なら簡単に大学入れるかな」と思ったんだけど、実は絵の方が大変でしょ。美術の予備校に行ったけれど全国レベルではデッサンも下手だった。そういう「逃げ」から始まっているんだよね。

長山 : そうだったんですね。

河内 : そのまま京都で芸大を目指して浪人したけどすごく遊んじゃって。そこでも逃げた。結局、美大はダメで経済学部に入ったけれど全く興味がない。大学卒業後は、会計のコンピューター会社に流れで入って29歳で辞めました。大学から会社員時代の10年間は暗黒なの。

平子 : 暗黒期。

河内 : 目標も見失ってやりたいこともない。このままずっとサラリーマンなのかな……と悩んだり。ここからも逃げなんだけど、会社を辞める言い訳として「何かをやる」と言わないと格好がつかないから理由を考えた。静岡は昔から瓦や木工などの工芸が盛んで、自分も手で何かがしたいと思って探している時に、多治見工業高校出身の陶芸家・平嶌康正さんに出会って、「もし本気でやるなら産地に行かなきゃダメだ」と教えてもらった。

そこで初めて「やきもの」の選択肢が浮かぶんですね。

河内 : 意匠研(多治見市陶磁器意匠研究所)は年齢制限が27歳だったから、瀬戸の窯業訓練校に入った。逃げで始めたのに学校がすごく楽しくて。その頃に知り合った陶芸やっている仲間は何でも自分で作っていた。たとえば、傾いた藁葺き屋根の家を買って改築したり……みんなお金がないから何でも自分でやる。いままで普通のサラリーマンだったから全部自分で作れるなんて知らなくて、ものすごいカルチャーショックだった。

平子 : 革命ですね。

会社を辞める建前として選んだ陶芸が啓さんにフィットしたんですね。

河内 : そうなんだよね。土は30歳になって初めて触ったから遅いよね。でも、土で作るのがぴったりハマった。昔は美術を仕事にして生活するイメージが湧かなかった、器だったら分かる。人が使う物を売るという感覚も理解できる。

【河内啓×PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
02

「生活を支えるために作る」ことで生じる歪みと美しさ

ずっと何かから逃げてきた中で、「陶芸」との出合いが大きなターニングポイントだった。

河内 : そう、そして柳宗悦の民藝の思想に出合った。宗悦は、装飾的なものは排除した機能美、機能が優れていることによる美しさを追求した人。伝統的な手法で「現代の食卓に合う器」を作っている人たちを発掘した。そして、形や口当たり、使いやすさを追求すると美しくなるということがすっと理解できたんです。

長山 : なるほど。

河内 : 「井戸茶碗」という有名な器がある。現代でも形の歪みや釉薬を勉強して、同じように作ろうとする人は多いんだけど、自然な歪みを一生懸命狙って作ることにすごく矛盾を感じた。目標に近付こうとすればするほど自然じゃない。

平子 : 意図的ですよね。

河内 : 見本があって、それを目指して作るのは違うと思った。井戸茶椀は、昔の人が自分の生活のために何千個も作るというスピードで生産していたもの。生活がかかっているから丁寧にも作れず、やむなくパッと作っていた。でも、それが雑器の美しさの本質だと思っている。僕の場合もマグカップを自分と家族の生活のために一生懸命作っている。だから、なるべく手数を減らしているんですよ。

井戸茶碗が作られていた背景と重なりますね。

河内 : そう、自分の意思や美的な装飾もなるべく外している。お客さんの使いやすさと効率だけを考える。それを何百個も作れば、一個一個の歪みが生まれる。それこそが井戸茶椀の歪みと同じだと思っています。

長山 : だから生活に馴染む器が生まれるんですね。

河内 : なるべく自分を出さないようにしているけれど、僕が作った器だと分かるのは欠点が出ているから。そこが面白い。みんなが「個性」と言っているものは、自分では「欠点」だと捉えているところだと思う。

自然と作品に現れる欠点こそが個性。

河内 : 性格だって嫌な部分は直そうとしても直せなくて自然とはみ出ちゃう。それが本当の個性。

個性を追い求める必要はなくて、勝手ににじみ出てしまうもの。

河内 : オブジェを作り始めた頃、「これからは自分の作りたいものをやろう」と作ってみたら、僕が尊敬している瀬戸在住の陶芸家・道川省三さんの作品にそっくりになってしまった。自分がやりたいと思って目指すもの、自分を主張してしまうものは、実は自分じゃないんですよね。自分を消そうとしていた時の方が、自分が出ていた。

平子 : はぁ~、すごい。

河内 : 土はレバレッジが効く。絵みたいに人間の力で組み立てるものじゃなく、土と窯の力を利用すると、人の労力の何倍もいろいろなものが生まれる面白さがある。オブジェは、バーナーで炙って剥がしてガサガサした土の表情を出している。土の力を十分に生かしたい。

長山 : 土の味わいが存分に感じられます。

河内 : もう一個のテーマがあって。それは自然と人の関係。人間はすごく自然が好きだけど、生の自然は耐えられない。直接自然と関わることに対しては、ちょっと弱い。料理も器が介在している。自然と人の間に介在するインターフェース、仲介役として陶器はすごく適している。

たしかに、食べ物という「自然」は器を介して取り込んでいます。

河内 : 器によって、どうやって自然を食卓に感じられるか。マグカップは割と人間寄りだけど、釉薬の垂れた感じや土の表情は自然寄り。花器は花を生ける時に利用するから器よりも自然寄りにしても大丈夫、と考えながら。

長山 : アイテムによって自然を感じる度合いが違う。

河内 : でも、いまは生活にデジタルが絶対入ってくるじゃないですか。たとえば、森での生活をYou Tubeで発信している人がいる。上半身裸でレンガを焼いたりしながら原始的な生活をしているけれど収益はYouTubeなんです。映像の中にはデジタルな要素は一切ないけれど、一歩引くとデジタル機材で撮って、僕らもデジタルの媒体で見ている。現代は常に自然とデジタルが共存している。だから、もう一つのテーマは、自然とデジタルが結び付いて作り出されるもの。今回のオブジェも遺伝子やデジタルのバグのようなイメージを取り込みたくて数字が入っているものもある。なぜそれをやりたいかは、まだ分からないんだけど。

平子 : 言語化できない部分かもしれないですね。

河内 : 問題意識を感じているけど、言葉じゃ言い表せられないから生み出している部分があるんじゃないかな。器は理由があるから作りやすいけど、オブジェは何のために作るのか?自己満足かな?と思いがちだったんだよね。

オブジェを作る動機と意義が掴めなかった。

河内 : オブジェを作る理由を考えていたんだけど、この前ミュージシャンのSuekikiさんとコラボして曲のイメージからオブジェを作ったの。その時に「場を締めてくれた」と言ってもらえて。オブジェは場をつくる。空気感や雰囲気をつくる機能と役割があるのかなと思った。……そこはまだ探り探りです。

長山 : オブジェに隙間がありますよね。

河内 : これは中をくり抜いて空洞にした。すごく土っぽい作品がずっしりしているとがっかりする時があって……重さはすごく重要。ものの重さや触り心地がすごく気になるんですよ。

平子 : 衝動的に作っているけれど一つ一つに理由はある。けれど、創作の衝動がどこに向かっているかは現在進行形で模索している。目指す方向は固まっているのに、まだ着地していないのが面白いですね。

河内 : 着地しないのかもしれないね。みんなと探っている途中なのかもしれない。

【河内啓×PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
03

多治見は、魔法使いと普通の人が混じっているようなまち

オブジェを再び始めようと決意したきっかけはあるんですか?

河内 : 一昨年かな……たじみ陶器まつり西通りの時に、20代前半らしき子がリンゴのオブジェをじっくり見ていた。「ちょっと考えます」と離れたけれど安価ではないから買わないだろうと思っていたら、その子が一周回って帰ってきてオブジェを買ってくれた。その時に若い子も何かを感じてくれるのかな、と。そこからちょっと自信がついた。

平子 : 何かを強く感じたんでしょうね。

河内 : あと、僕がちょっと前からパンクバンドも始めてさ。パンクをやり始めたらファッションが変わった。訓練校の頃からケルト音楽やジャズを聴いていたの。その影響もあって装飾はゴテゴテしない方がいいと考えがちだったんだけど、パンクのベースなんだからサングラスしなきゃって。笑

長山 :

河内 : 最近は柄悪い格好をしているのが楽しくなっちゃって。オブジェもわざとらしい装飾は良くないというこだわりがあったけれど、さらにこだわりも外れて好きな装飾ができるようになった。考え方が変わった。いまは変わり目です。

陶芸以外のことが、ものづくりに作用してくるものなんですね。

河内 : すごく影響がある。

平子 : 全般的に啓さんって軽やかなんですよ。僕と共通の趣味の中日ドラゴンズも「何かハマるものが欲しい」というところから入ったんだけど、いまや誰よりも熱量を持って楽しめている。

河内 : いつも面白いものを探していると思う。野球も嫌いだったけれど、好きになったら世界が変わった。世の中は野球の情報に溢れている。……これは語り始めると長いから。笑

平子 : ずっと話していられる。笑

河内 : どうでもいいことが話せるのもいい。陶芸仲間との仕事の話や情報交換も必要だけど、そういう内容はどうでもよくないから、いろんな感情が入り混じってしゃべりにくい時もある。けれど、野球はどうでもいいから、自分と違う意見でも「そうだね」と言っていればいい。すごく気楽にしゃべれる。

仕事のことを話せる場も必要ですが、仕事以外のことを話せる仲間がいるのも大事ですよね。

河内 : そうそう。それに野球は毎日試合がある。ずっと同じことをやっているがゆえに、その中の微妙な差異を語れば無限に話題がある。

作り手、やきものの仕事している人との話題が友だちみたいですね。

河内 : 意外と陶芸家同士で仕事の話はしないんだよ。ゲームや野球の話とか。10個以上、年齢が下の世代も多いけどね。

長山 : たしかに世代は関係なく、皆さんとお付き合いされている印象です。

河内 : 多治見にいると年齢は関係ないなって感じる。でも、すごく仲良くなって何かの拍子に親の年齢を聞くと俺より下だったりする。それで急に敬語になって距離ができちゃうこともあるから、歳がバレないようにしてる。笑

PRODUCTS STORYの座談会でも啓さんの話題が出ることがよくあります。愛されキャラというか……まちのみんなが啓さんのことを好きなんだなと感じます。

河内 : 多治見は珍しい街だと思う。東京や京都、静岡とかいろいろな地域に住んだけれど特別な何かがある。ここに来ると友だちが増えるし、ハリーポッターのダイアゴン横丁みたいな側面もある。

長山 : 魔法の杖とか売っているところですよね。

河内 : そうそう。魔法学校の近くにある下町で、普通の人間にとっては変哲もない店だけど、魔法使いが訪れると奥に杖が売っている。この地域でも同じ。普通の人にはただの古い金物店にしか見えないけど、陶芸家が行くと何でも揃うものすごい店だったりする。多治見には、魔法を使える人と普通の人が混じっている感じがする。

陶芸家、作り手が暮らすために必要なものが、まちに用意されている。

河内 : 多治見は若い陶芸家がうろうろしているから、飲食店やギャラリーが媒介になって人と人がつながれている。陶芸に限らず、自分で何かをやっているクリエイティブな人も多いよね。ムーミン谷みたい。どこかに行くと絶対友だちがいるじゃないですか。

平子 : そうですよね。しかも、総じてクリエイティブな人のクオリティが高いのは本当にすごい。特に飲食店さん。

河内 : 楽しいよね。いまは俺、クルマで5分ぐらいの範囲しか移動してない。

河内 : 多治見自体は、お金になりにくいまちだと思う。それがいいのかなって。訓練校の時もお金がないから、古い家を改造したり、自分で作ったりすることは必然だった。でも、実はそれ自体が豊かなことなんだよね。お金があったら、そんな大変なことはしない。多治見も「これは採算が取れるのかな?」って不思議なお店もあるじゃないですか。それでも、みんなやる。

平子 : たしかに。

河内 : 少し前に金沢へ行ったんだけど、観光地として確立しているからチェーン店とかいろんな資本が入ってきていて。

平子 : 資本主義が強いんですよね。

河内 : そうなると若い人が一人で商売をやるのは大変。多治見は大きい資本がまだ入り込んでいない。だから、若い人がポンと入って何かやろうとしても始めやすい。それが楽しいんだよね。すごく豊かだと思う。

まちの人同士が共感して、利用していることで潤う部分もありますよね。

平子 : 今日、喫茶わにで食事をしたんですけれど、啓さんの器が使われていました。店と作り手、双方向のコミュニケーションも多い。これも互いがリスペクトしているから成り立つ。これは未来に向けた小さな経済だと思う。

【河内啓×PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
04

家族の影響を受けながら、変わりつづける

元々、土岐市で工房を構えて作陶していました。土岐から多治見に移ってきたのはコロナ禍の最中ですか?

河内 : そう、2020年にコロナ禍の影響で個展が全部なくなったんだよね。陶芸家の引っ越しってすごく大変。窯を全部止めて移動しないといけないし、制作の時間が取れなくなるから。

長山 : ずっと土岐で暮らそうと思っていたわけじゃないんですね。

河内 : 地元の静岡でも土地を探していたけれど、実家から1時間半かかる場所しか見つからなくて、だったら岐阜でも一緒かなと。多治見は便利だからずっと探していた。でも全然見つからなくて何年もみんなに声をかけていた。そうしたら玉木酒店の陽子さんがここを教えてくれた。でも、コロナ禍のタイミングじゃなかったら引っ越せなかったよね。

家族の仲がいい河内家。みちこさん(啓さんの妻)の作る料理もいつもおいしそうです。

河内 : 俺は食事に全然興味なかったから、みっちゃんのおかげでおいしいものを教えてもらった。元々みっちゃんは全く料理ができない人で、ご飯も炊けなかった。最初にがんばって作ったケーキは硬くてフォークが刺さらなかったくらい。笑

長山 : いまはこんなにおいしいお菓子まで作ってくださるのに。

河内 : みっちゃんは、とにかくおいしいものが大好きだったの。幼い頃に読んだ本は、全部食べ物のことを覚えているくらい貪欲。だから、いつも自分が食べたいと思うものを作っているみたい。

自分の作った器に、おいしい料理が盛られる食卓。幸せな光景ですよね。

河内 : それはやっぱりうれしいよね。あと、すごく勉強にもなっている。深さやリムの大きさ、使い方は料理を盛った器を見ないと分からない。みっちゃんが上げてくれているインスタの写真もすごいよね。宣伝になっているし、器だけをアップするよりも料理写真の方が反響は大きい。

平子 : パートナーシップですね。

河内 : 俺は、元々そんなに喋るのは得意じゃなかったけれど、みっちゃんは喋る人だから、それにすごく助けられた。一人で黙ってうろうろするのが好きだったけれど、みっちゃんの影響で変わった。30歳以前の自分とは全然違う。

平子 : 愛ですね……。

河内 : 結婚して20年経っているからこそ。最初はたくさんケンカもした。結婚した当初は、俺が陶器の勉強をしているのにすごく安い量産の茶碗を買ってきたから大喧嘩したこともあったんだよ。笑

長山 : そうなんですか。笑

河内 : 俺も、いまだったら許せるんだけど、必死で陶器の勉強をしている最中で良い器を使いたい気持ちが強かった。こっちが変にこだわっていた時期もあった。

お子さんは器に興味を持っているんですか?

河内 : こういう器が家にあるのが自然すぎて全然興味ない。幼い頃、目の前にある器を投げちゃうんだよ。投げても次から次へと出てくるから、投げていい物だと思っちゃう。その頃は諦めて給食用の割れない食器を使っていた。物がどんどん出てくる環境は教育上よくない。笑

長山 :

河内 : たぶん、この生活から離れたら器のことも分かると思う。

平子 : もう娘さんは就職するタイミングですもんね。

河内 : この前、娘が内定式だった。パンプスで足が痛いから駅まで送って行ったんだけど泣きそうになっちゃった。卒業式とかは覚悟するから泣かないけど、全くの無防備で、多治見駅の階段を登っているスーツ姿を見たらすごく泣けてきた。

平子 : それは泣けますね。

河内 : オブジェに取り組めるようになったのも、子どもたちが育ったから。これからはいろんなことをやってみたいね。