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一洋陶園×PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会

01 やきものの仕事の楽しさを、どう見出したのか?
02 土と釉薬の組み合わせで生まれる、無限の表現
03 鋳込みの器とクルマの「造形美」で通じるもの
04 前向きな人間関係のなかで、産業のこれからをつくっていく

<今回の参加者>
一洋陶園 水野力
株式会社ユープロダクツ 代表取締役 平子宗介
PRODUCTS STORE 店長 長山晶子
インタビュアー・編集者 笹田理恵

撮影 加藤美岬

岐阜県土岐市泉町。昭和32年創業の一洋陶園は、圧力鋳込みを主とした器づくりを続けています。圧力鋳込みとは、石膏型に粘土を流し込んで圧力をかけて成形する技術。独特なラインや複雑で立体的な形状の器が再現できます。

三代目の水野力代表は、高度経済成長の流れを汲んだ大量生産で長時間労働をしていた家業に憧れを持つことができず運送業に勤めます。しかし、巡り巡って土の魅力に気付いて23歳で入社。そこから土と釉薬の掛け合わせによって生まれる無限の可能性から、ものづくりの楽しさにのめり込んでいきます。

今回は、一洋陶園のものづくりへの挑戦。そして、白土、赤土、黒土と多様な土を扱うやきものの面白さ。そして、自社と産地の未来について。圧力鋳込みと水野代表の趣味との関連性も! 産地で互いを助け合い、明日を紡ぐ考え方に触れる座談会をお届けします。

【一洋陶園×PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
01

やきものの仕事の楽しさを、どう見出したのか?

平子 : 今回、EDITIONSの新商品を一洋さんにお願いさせていただきました。僕らも改めて作り手さんとの接点を深めるためにも今日の機会をぜひ活用させてもらえたらと思っています。まず、一洋さんに20代の後継ぎが入社したされたという朗報をお聞きしました。保育士をされていた娘さんが入社され、籍を入れたパートナーも一緒に働いている。美濃焼ビッグニュースとして号外を出したいくらい……!

水野 : うれしいことですよね。

平子 : やはり一洋さんに未来があるからこそ。息子さんも地元の方なんですか?

水野 : 娘とは中学からの同級生で。彼の親御さんの「やってみたら」という助言もあって、入社をしてくれました。いろいろなタイミングが良くてという流れですが、本人からのやる気はすごく感じます。3年から5年くらいで、この仕事の楽しさを見つけてもらえれば続けていってくれるかなとは思いますけどね。

水野代表は、家業にどんな印象を持っていたんでしょうか?

水野 : 祖父が定林寺で創業して、泉町に引っ越してきたのが僕が生まれた年。そこですぐに祖父が亡くなってしまうんです。

平子 : 急な話だったんですか?

水野 : そう。僕の親父は引っ越してきたばかりで多額の借金を抱えることに。でも、僕に苦労をさせないようにと親父の代で全て借金を返していました。クリーンな状態にしておいて、僕がこの商売をやるかどうかは自分で決めればいいと。でも「自分でやりたいことをやれ」という感じでしたね。

当時は、現在とは異なるものづくりをしていたんでしょうか?

水野 : 当時は100%OEMの会社で、とにかく大量に出荷する仕事。白い釉薬を山ほど塗って3つの窯で毎日焼く。仕事が終わって帰って来るのが24時。だから、僕が小さい頃は親と一緒に食事したことないんです。おばあちゃんにごはんを用意してもらって子どもだけで食べていました。だから、そんな仕事は嫌だと思っていました。

長山 : 最初は違う仕事に就いたんですか?

水野 : 僕はクルマが好きだったので運送業をしていました。トラックに乗って食品を運んだりして、最終的にはやきものの原料を運ぶ仕事に就くんです。土屋さんで担当者に「ここに運んでもらえますか」と言われて運ぶわけですけれど、家業では土屋さんがうちに土を持ってきている。立場が逆になっているなと。

平子 : ちょっと不思議な状況ですね。

水野 : 原料屋さんにいるうちに土に興味を持ち始めて、どこから土を採っているのか?と質問をしていたら「一洋さんもうちの土を使ってもらっているよ」なんて話になったり。なんだかもったいないことをしている気がして興味が出ましたね。

長山 : 違う業種から家業に興味を持つきっかけが生まれたんですね。

水野 : そこから僕は23歳で入社しました。そのタイミングで親父が赤土をやり始めるんです。自社で型を作ってオリジナルを作る仕事を目の当たりにしたら、こんな面白いことはないと。親父は親父で作りたいものを作る。僕はそれを見よう見まねで真似する。見たことのない釉薬を塗って窯出しをすると、白いものしか見たことがなかったからこんな良い色になるんだと。同じ釉薬で土が違ったらいろんな表現があると知って、一気に面白くなってのめり込みました。

土と釉薬に出合って、ものづくりへの意識が激変したんですね。

水野 : 今年入社した彼も何かきっかけがあればね。いまは覚えることに精一杯だから、何年か経った後に自分で作りたいものが出てきたら自由にやってもらえばいいかな。一番面白いのはそこだと思う。

【一洋陶園×PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
02

土と釉薬の組み合わせで生まれる、無限の表現

元々は、一洋陶園さんは主に何を作っていたんですか?

水野 : 水ごて成形の灰皿でしたね。四角いどんぶりにタバコを置く凹みがあるような変わった灰皿。先代が圧力鋳込みに未来を感じて、水ごてはスパッとやめました。

その頃はまだ圧力鋳込みは珍しかったんですよね。何に未来を感じたんでしょうか?

水野 : 私はそういう話をしたことないですが、とにかく周りの大手さんたちに全自動の設備が入り始めていたんです。

平子 : 合理性がどんどん高まっていった時ですね。

水野 : 勝負にならんとは言っていましたね。違うこと、という視点で圧力鋳込みに目をつけて切り替えたと思います。

長山 : いまや一洋さんの特色である「黒土」はなぜ始めたんですか?

水野 : 黒土は、うちの外注さんが亡くなられたことがきっかけでした。その方は親父が機械設備を提供して一から教えて商売を営んでいた人なんです。亡くなった後に商売ができなくなり、設備を引き上げてほしいと話があったので自社に持ち帰りました。親父は白い器をもっと多く作れるようにしたいと言いましたけど、僕が新しい土をやりたいと。圧力鋳込みで黒い土を扱う会社がなかったのもあって、黒土を始めましたね。

長山 : 最初からうまくいったんですか?

水野 : 黒土は磁器のように抜いてみたら固くならんし、練れない。いまは二種類の土を混ぜていますが土屋さんと相談しながら試して……うまくいくまで半年はかかりました。

平子 : このエピソードに一洋さんの強みが詰まっていますよね。将来だけを考えればお父様のおっしゃる通り白い磁器を増やせばいい。黒土をやれば大変な道のりだと想像できるのに「面白そう」「やりたい」という気持ちが結果として未来につながっている。

土の色が表情となる黒土の器。市場ニーズは高いんでしょうか?

水野 : 黒土や赤土など変わった風合いが人気ですね。ムラは白土にも出ていますが、白いから目立ちにくい。黒土や赤土は、土の色が下から出てくるので濃淡がハッキリと仕上がる。最近はムラが強く出るように、キレイすぎると言われがちなので難しいですよ。笑

長山 : 数年前だとこのムラ感はNGでしたからね。しかも、土と釉薬の掛け合わせが面白いんです。たとえば、黄色の釉薬でも白土と黒土で色味は変化します。

水野 : 新しい釉薬を作るときも面白いですよ。磁器、黒土、赤土に塗って窯に入れる。バリエーションをどんどん増やしたいですね。

今回、一洋陶園さんと新たに作ったParquet Re(パルケ リ)の器は何の土ですか? 落ち着いたカラーがすてきです。

長山 : これは白土ですね。一洋さんで展開していた紫などのくすみ系カラーを採用して、マットではなくツヤのあるものにしました。色は私たちが釉薬屋さんに行って選んだものを毎回一洋さんがテストで焼いてくださって、そこから選びました。

水野 : 彫刻が入っているので濃淡が出た方がいいだろうと。そういうのをきれいに出せるのはこういう色かなと。

長山 : アドバイスをいただいて、大人っぽいラインナップになりました。

【一洋陶園×PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
03

鋳込みの器とクルマの「造形美」で通じるもの

平子 : 社長は入社してものづくりを始めたらすごく楽しくなった。家庭内にそういう要素があったのでしょうか?

水野 : 元々ものづくりは嫌いではなかったと思う。クルマが好きでしたし。若い頃はクルマを自分で直していました。僕は、クルマのプレスラインとかがすごく好きで。器においても僕の譲れないところは形状のライン。

長山 : 一洋さんの形状の美しさとクルマのラインって、なんか似てるかも……?

平子 : その嗜好は、いまの仕事につながっていますね!

水野 : 僕がいま転職するならクルマのクレイモデラーがいい。笑

平子 : 車体の原型を作る仕事ですね。

水野 : たとえば、フェラーリならフェンダーからドアにかけたラインがいい。このラインが一番きれいに出せるのは黄色や赤だとか……僕がクルマを選ぶ視点はそんな感じでしたね。

クルマに対する造形美の視点と器には共通点があるように感じます。色との組み合わせでラインや形状の見え方が変わる。

平子 : この記事がフェラーリ社に届いてほしい。

水野 : それは荷が重すぎる。笑

水野 : 圧力鋳込みは造形が表現しやすくて作れないものがほぼない。表現方法が多岐にわたるのが面白くて一番いいところやぞ、と親からも言われていましたね。

平子 : 造形美というアプローチがありましたが、使い勝手もすごく意識されているじゃないですか。そこはどう考えているんですか? 自分で使ってみたり?

水野 : 長年やってきた業務用の器は、料理を盛った時の余白で皿の大きさが決まる。それは一般家庭でも同じという考えでサイズを意識しています。デザイン性と機能美のバランスは、50:50が一番いいんです。使い勝手だけ見ればシンプルなものが一番いいけれど、それは味気ないわけで。その割合はいつも攻めぎ合いです。

デザイン90:使い勝手10など、極端なバランスに偏ることはないんですか?

水野 : あります。僕がどうしても譲れなくて……意外と売れるのもありますよ。でも、ニッチさを理解できる人しか手に取らないですね。僕の思いが詰まった器は、たとえ50枚でも売れれば僕にとっては成功なので。

平子 : そういうモチベーションがないと新しいことには挑戦できないですよね。

【一洋陶園×PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
04

前向きな人間関係のなかで、産業のこれからをつくっていく

平子 : 一洋さんはニーズが高い商品を作って大量注文も受けているけれど、細かい発注であっても納期を守って提供していただける。実は産地では珍しいこと。やはり皆さん忙しい状況だと大きい仕事を優先しがちで細かい発注は後ろ倒しになってしまう。商社側からすると一洋さんへの信頼感がすごくある。

水野 : それも付加価値の一つ。これは諸先輩方から教わりました。例えば、土岐市泉町の光洋陶器さんは1個から1万個まで全て対応するのを目標とされています。さらに「時間がかかるのは仕方がないけれど、返事した納期から遅れるのは仕事として話が違う」という考えを聞いて、すごく納得しました。だから返事したところには不慮の出来事がない限り納期は守る。

平子 : すばらしい。本当にありがたいです。

水野 : でも、そこは人間関係が構築できているかどうか。今回の納期はどうにかしたいからとお願いして、快く「いいよ」と言ってもらえる関係さえできていればいいかなと。それは外注さん、土屋さん、釉薬屋さんの全てに対して。

平子 : その視点で取り組まれているから協力してもらえるんでしょうね。昔はやっぱり取引先との上下関係が強かった。

水野 : 仕事だけの金銭的関係だとうまくいかなかったこともありますよ。「仕事が少なくなっているから何かあるやろか?」と連絡をもらえれば、「じゃあ、これやってもらえるか」ということからも関係性ができていく。

持ちつ持たれつ。困ったときはお互い様ですね。

平子 : 情緒産業と言われる所以です。良くも悪くも全てが情緒で動いている。

水野 : 長山さんに「この日までに何とかしてくれ!」って言われたらやりますよ。それだけのことです。困っている人は助けてあげたいですから。別に恩に着せたいわけではない。何とかしてくれるかもしれないと思ってくれているから頼まれる。それなら何とかしたい。そういう関係を築ける人たちと一緒に協力して産業をつくるしかない。これも今後の展望ですね。

平子 : 勇気づけられます。

水野 : これからは会社の位置付けもハッキリしてくると思います。ここからの5年、10年で自社の強みや価値として提供できるものは、納期や数量、デザインやOEM……どう協力できるのかを総合的に見つめ直していきます。

平子 : 僕らもものづくりのパートナーになっていきたいですし、お客様を含めてチームだと思う。今までみたいに買ってくれればいいとかではなく、お客様にも理解してもらわないといけないこともある。そこは我々がきちんと整理する役割を担っていけたらいい。その方が楽しいですよね。

水野 : まったくその通り。もちろん苦しいこともありますし、いろんな課題や困難もめんどくさいなと思いますよ。だけど、課題がある方が仕事は面白い。何かをチャレンジしている時の方が仕事は面白いです。

新しいことに挑戦する苦労と引き換えに得られる喜び。やきものの仕事における面白さの醍醐味かもしれませんね。

水野 : うちに入った彼らも、それを経験してもらえるようになると面白さが分かってくると思うんですよね。

長山 : 何年後かに息子さんと娘さんにインタビューできると面白いですね。

平子 : 良い作り手が未来を見据えた時、僕たちの存在が少しでも安心感につながってほしい。素晴らしいものづくりが続いていくことが僕らのモチベーションですし、そこに貢献していきたいです。最後になりますが、ユープロダクツに期待することはありますか?

水野 : いまのままやり続けていけば大丈夫。社員さんも若い方ばかりですし、先を見てがんばって継続していただけることが重要かな。

平子 : 継続はすごく意識しています。息子さん、娘さんが第一線で活躍される時代に少しでも仕入れができたらうれしいです。

水野 : ありがとうございます。僕もあと10年で何とか彼らに全権を任せたい。僕が53歳なので60歳までに育てないかん。ここから10年くらいが僕の正念場となる。この5年、10年で僕らの産業も様変わりしますよ。

平子 : 総仕上げのようなやりがいがありますね。

働き方としては変化していますか? 昔のように夜更けまで仕事場にいることはない?

水野 : 僕以外はびっちり定時の8時半から17時半です。僕が残るのも窯が冷める時間の入れ替えや窯のふたを閉めるという工程があるので残るだけ。残業して何かを作ることはなるべくしない。

働き方も、継続性にとってはすごく大事ですよね。

水野 : 僕が一人のうちは23時になろうと自分が好きでやっていることですからいいですけれど、それを従業員にはさせられない。きちっとした拘束時間の中でしっかりとした収入が得られる仕事なら続けられるはず。そういう整備も必要。社員さんにももっと集まってもらえたら役割分担もできて、盛り上がっている会社になりますよね。

長山 : ちなみにプライベートでの息抜きはあるんですか?

水野 : とにかく洗車をするのが好き。子どもが小さい時、僕は汚れたクルマに乗って出かけたくないので朝8時に出かける場合は6時に起きて洗車していた。

長山 : 出かける前に!?

水野 : きれいなクルマで出かけたいんです。若い時に今日は何も予定がないと言われたら、1日中洗車していた。とにかくクルマのラインが好きだから、クルマの後方へ行って、いろんな角度からキレイになったな~って眺める。

長山 : 新しい一面を知りました!

平子 : 今回は、愛車の前で集合写真を撮りたいくらい。笑