石川裕信 × PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会
<今回の参加者>
陶芸家 石川裕信
株式会社ユープロダクツ 代表取締役 平子宗介
PRODUCTS STORE 店長 長山晶子
インタビュアー・編集者 笹田理恵
札幌に生まれ、愛知県瀬戸窯業訓練校を経て、現在は岐阜県土岐市の山間に工房を構える石川裕信さん。ものづくりや仕事観、薪窯の活動への思いなどをたっぷり伺いました。石川さんの人柄や雰囲気(猫好き、ゲーム好きな一面も)をぜひ感じ取ってください。
たっぷりな座談会】
10年来の関係の中で
陶芸作家がカフェを営んでいた家屋に暮らし、作陶されている石川裕信さん。まずは、一緒に暮らし始めて半年ほどの2匹の猫のはなしと2022年第一弾の企画展について。
石川 : 近所の捨て猫っていうかたぶん野良だった。お母さんが死んじゃったのか分からないけど、よく生きていましたよ。
子猫の状態で保護されたんですね。
石川 : 1、2カ月くらいは経っていたと思うんですけど、すごく小さかった。栄養もあまり摂れていなくて耳はダニで真っ黒で。
良いおうちに来れてよかった。幸せ者。
石川 : ハム太郎とちむ。そっくりだから間違える。毎回間違えてるくらい。
2022年のスタートを切る企画展。打合せは、店長の長山さんと進められたんですか?
長山 : 展示の点数だけお伝えして、その時に石川さんが作りたい物を作って欲しいというお願いをしました。あとは村上さんの展示同様、多治見の花店・カトリエムさんが装飾してくれるので花器を多めで。
平子 : 石川さんは10年くらいお付き合いいただいていて、おそらく僕が「店をやりたい」という話も昔から聞いてもらっていたと思う。そういう歴史もありながら、PRODUCTS STOREで石川さんの作品を常設できて、その延長線上に個展があって。しかも多治見でやれるということが、我々にとっては感慨深い。できれば、継続的に石川さんにとってプラスになる形にしていけたらいいなと思っています。
石川 : 「平子商店、いつできるんですか?」って言ってましたもん。本当にできましたね。
平子 : ね、意外と言ってみるもんですね。
長山さんは前職から石川さんのファンだったんですよね。石川さんを知ったきっかけは何でしたか?
長山 : 前職でバイヤーになりたての頃、器を勉強するためにギャラリーや器屋さんを回っていました。大阪の玄道具店で石川さんの器が目に入って触っていたら、お店の方がいろいろお話してくださって。その方の石川さんの作品に対する熱意や姿勢が面白くて、印象に残った接客でした。
お店の方は、石川さんの何を伝えてくれたんですか?
長山 : 一見可愛くなりすぎる「輪花」の器を、石川さんはかっこよく、スタイリッシュに作る。それは釉薬の表現や曲線の入れ方だと思うから、そういう所を見てほしいと。器をバックヤードから出して選ばせてくれたのも記憶に残っています。
器に興味を持ち始めた頃の原体験的なエピソードなんですね。
長山 : 石川さんは、作家ものに興味を持ったきっかけのおひとりです。元々は民芸が好きでやちむんや小鹿田焼とかを見ていましたし、作家ものは緊張してどう扱っていいのか分からなかったので。きっかけをくださった方だからこそ店で扱えるようになってうれしかった。
作り手からは、ギャラリーやバイヤー、商社に対する視点はありますか?
石川 : 器を好きな人が売ってくれているのは安心する。でも、それくらいですかね。ユープロダクツに対しては商社と思ったことがないかもしれない。特に、平子さんの立ち位置は特殊でギャラリーの人と会っている感覚と変わらない。それに、平子さんくらいよく会っている人はいないですよ。
コロナ禍で全国のギャラリーやお店の方と会う機会は減っていますか?
石川 : 確かに最近では東京のお店の人と一年に一回も会えていないですね。直接会って話を聞けないのは、きっと不安だと思う。
平子 : 産地だからこそ関係性が深まる側面はありますよね。
作品を見ているだけでは分からない、伝わりきらない部分もあるのでしょうか。
石川 : そうですよね……販売する人の感覚は分からないですけど、やっぱり必要ですか? 作品の背景というか、作家を知ることが。
長山 : 石川さんがどういう方で、どういう思いで作られているか。作り手のお気に入りポイントまで伝えると、お客さんは身近に感じてくれます。愛着を持って大事に使ってくださるし、作品のファンになって、また来てくださるのはありますね。
平子 : 情報は、通り一遍なものになりがちなので、編集して伝えることは大事。こういう取材や発信も店の存在価値につながりますよね。
なるほど、咀嚼して発信することも大事ですよね。
平子 : 作家さんが自ら販売できる世の中で、別の価値が店側にないと店舗は必要なのかって話になる。でも、作り手本人が勧めることも手段の一つだけど、その物を「良い」と思っている人がオススメする価値もある。我々の発信が信頼を勝ち得ていけば、作り手のメリットになれるのではという思いはあります。まだまだですけど目指すところ。
多治見に器を扱う店が増えたことに対しては、どう感じていますか?
石川 : 多治見での取引が無くてさみしいなとは思っていたので、今は平子さんもいるし、新町ビルの山の花もやってくれるし、やっぱりこの辺りでの取り扱いはうれしい。あとは、搬入が楽。笑
平子 : 我々が素敵だと思う作家さんが作り続けられることに少しでも貢献できたらいい。ある意味、消費地って自分で作って自分で売るのはすごく難しい。量産の世界でも問屋機能の存在がプラスになることは多いはず。直販するメーカーもあるけど、産地商社の我々がちゃんと仕事していれば手に取るお客さんにとってもメリットがあると思う。
たっぷりな座談会】
薪窯は意図せず良くなるのに、「自分が作っている」と自信満々に言える
2021年はどんな一年でしたか?
石川 : 2021年は薪窯でしたね。ずっと作り続けていると一年あっという間だし、何していたのか分からなくなるんですけど、月に1回薪窯があるとリフレッシュになる。薪窯が制作の中心になっていくわけじゃないですけど、いいですよね。
平子 : 薪窯で焼かれた物が刺激になるのか、それともみんなでやることが? イベント的な?
石川 : 後者ですね。
平子 : それを気心知れたメンバーでやり続けられるのは稀有なことじゃないかなと。
石川 : そうですね、楽しいです。
平子 : それこそ「今回は個展が近いから誰かの物を多めに焼く」などと融通し合うのは、大人数だと難しくないですか?
石川 : そういうのをやりくりし合うのもいい。
平子 : うまく調整し合うのは信頼関係がないとできない。
薪窯は、いつから始められたんですか? きっかけは?
石川 : ちょうど一年前くらいです。きっかけは額賀(土岐市在住の陶芸家・額賀円也さん)と「作っている物のレベルをひとつ上げたい」と話していて、何か面白いものが出たらいいなと。そしたら、やりたい人がいっぱい居たから始めました、みんなで。
「やっておいた方がいい」と感じる理由は?
石川 : 薪窯はちょっと特殊で、温度の上げ方とか火の回りとかガスや電気では得られないものがあるので、そこは勉強しておいた方がいいかなと。
平子 : 僕らとしても薪窯を近くで見られて、敷居がない形で話を聞けるのはなんてありがたいのだろうと。求めても誰しもが体験できるものではない。こういう贅沢さを噛みしめながら作品を販売していきたい。
薪窯に対して感じている魅力というのは。
石川 : 意図しない物が出てくるのが一番大きい。窯出しして、思ったよりも良い物が出ると「グッ」となる。この「グッ」のために、みんなやっているんじゃないですか。
平子 : 薪窯に委ねる行為が面白いですよね。
石川さんはどういう時に、グッとガッツポーズが出るんですか。
石川 : 電気窯でもありますけど、炭化の焼き締めでかっこいい模様が出ているとか。みんなガス窯とか電気窯で狙い通りに焼けるようになっているから、逆に薪窯は楽しいですよ。あまりコントロールできちゃうと「よし!」っていうのがなくなりそう。
「よし!」の反面、「あれ……」という結果もあるんでしょうか。
石川 : めちゃくちゃありますよ。一窯が全部失敗するとかしょっちゅうありますから。
平子 : いわゆる「ダメだ、パリーン!(割)」みたいな?
石川 : ありますよ、実際にやってますもん。笑 素焼き全部とか。失敗したら邪魔なだけですもん。
そういう時は失敗に対して向き合うよりも、次に手を進めるんですか?
石川 : 向き合う余裕ないですね。だいたい個展のちょい前に焼くから「どうしよう……終わった……」みたいな。笑 もうやるしかないって作り始めると一週間で意外とできちゃったりして。
狙い通りに作るスキルを積み上げながらも、薪窯のようにコントロールできない面白さの両軸を持っていたい。
石川 : そうですね。不思議なもので、薪窯は意図せず良くなるのに「自分が作っている」と自信満々に言えるんです。かなり手放しているのに作品の出来に対して「薪窯のおかげだから」と言う人がいない。みんな自分が作ったと思っているんです。不思議ですよね。
平子 : 商売で考えると石川さんはたくさん注文が入るし、ガス窯で作った方が効率いいですよね。自分の表現を続けるためにも薪窯は大切ですか?
石川 : あまり表現とは思っていないけど、モチベーションが大事なんですよ。同じ物を作るってけっこう……精神的にきますよね。ずーーーっと作り続けるんだもん。
モチベーションが落ちてしまって手につかない時期もありますか?
石川 : あります、あります。そういう時はゲームやってます。でも、炭化の焼き締めを始めた2年前くらいから面白くなってきた。それまでは型物ばかり作っていたから大丈夫かって不安もあり、さらにやる気なくなる時もあったんですけどね。炭化も薪窯もやってよかったですね。
平子 : 薪窯から出てきた物に対してみんなで良い・悪いとか具体的な意見を言い合ったりするんですか?
石川 : しますね。素直に言うだけですけど……でも、みんなそれを聞いてどうこうする気はないんじゃないかな。笑
平子 : 皆さん、確立されているスタイルがあるってことですよね。
石川 : 「絶対変えた方がいい」って言ってるのに全然変えない。笑
石川さんも人から言われることはあるんですか?
石川 : ありますよ!……でも、聞いてないかも。笑 言われた気がするけど覚えてない。
平子 : 自分が良いと思うもの以外を人から「すごく良い」と言われるのは「こいつ分かってない」と思うんですか?それとも違う視点があるなと思いますか?
石川 : どうかなぁ……「こっちの方がいいだろ」とは思っているかなぁ。でも、自分が良ければいい。あとは、お店に渡した時点で、もう僕のじゃない。笑
平子 : その先は相手の解釈でいい。
石川 : どっちでもいいですかね。誰が何を好きでも。
お客さんの声は、ものづくりに影響はしますか?
石川 : 形を変えたいと思っている時、気になっている所を指摘されると「やっぱりそうか」と気に留めることはあります。でも、自分が思っていること以外はあまり聞かないです。昔の方が良かった、とか。
「昔の方が……」と言われることもあるんですか?
石川 : 昔の形の方が使いやすかった、とか。よくあります。
特定のニーズに対してものづくりをする発想には至らないですか?
石川 : ニーズに応えるわけじゃないけど、ないことはないかな。具体的に言うと、本屋でレシピ本を見ていて、いまこういう流れだな、それが好きだなと思ったらやりたくなる。それこそ、自分が全く理解できないところでいろいろやり始めるとモチベーションを保つのが難しくなるので。できそう、楽しそうに着地すればいいですね。そこが一番分かりやすい。
実験的な創作もたくさんされているんですね。
石川 : やるんですけどお店に出すまでにならないんですよ、なかなか。クオリティ的に。
平子 : 同時進行ですもんね。
石川 : 出来ても包んで納品する時に嫌になっちゃう。本当に、梱包の時が一番病んでる。めちゃくちゃ嫌々やってるんで。
そうなんですか!? 梱包の作業自体が嫌い……?
石川 : 梱包の作業が嫌。だから、ちょっとでも自信ない物だと「やっぱりやめた」になるんですよ。
その場合は、納品点数が減るってことで。
石川 : そうですね、しょうがないです。
たっぷりな座談会】
好きなことを始めるきっかけになった“主人公たち”
平子 : 意匠研(多治見市陶磁器意匠研究所)を出て、これから作家として活躍していく下の世代がいるじゃないですか。世代間の価値観の違いは感じますか?
石川 : 交流は少ないですね。でも、新町ビルの花山くんと話しているとこの人は新しいなと思いますけど。下の世代とはお金の話をあまりしないかな。
平子 : 若い世代から「人を蹴落としてでも自分が儲かりたい」という価値観を全く感じない。それでもうまく回っているからすごい。
石川 : その方が回る気がする。
平子 : それは新しい価値観。爆発的に稼ぐことはなくても豊かさの定義が変わってきているから。
世代が変わって、物に対する価値観も変わっていますよね。
石川 : 作る側の価値観が変わるとどうなるんだろう。どんな物ができるんだろう。
好きな物を作ることと稼ぎに対する貪欲さのバランス感覚は必要でしょうか。
石川 : バイトすれば死なないから好きな物を作るだけでいい、という人もいるかもしれない。それが「幸せ」みたいな。それこそ僕らは「仕事なんだから稼がなきゃ」みたいなのはありましたけど、それすらないかもしれないですよね。
石川さんは、そういった点で葛藤していた時期はなかったですか。
石川 : 何にも考えてなかったですね。注文が来たらひたすらやるだけ。バイトしたくないって思っていたし、できるだけ作っていたかった。
やきものしかやりたくない、という気持ちはあったんですか?
石川 : 焼かないとうまくならんなと思っていたし、先輩の加藤祥考さん(土岐市に工房を構える陶芸家)にも「焼いた数だから」と言われていました、ひたすら。
平子 : 石川さんにとって、先輩である加藤さんの存在は大きかったですか。
石川 : 大きいですね。加藤さんがいなかったら続けてなかったかもしれない。当時、駄知の窯元で働いていて、やきものばかりで、ちょっとお腹いっぱいになるじゃないですか。自分の作品を作る気力も薄れてくる。それでも加藤さんは「これに出しなさい」と応募用紙とかをいろいろ持ってきてくれて、すごくケアしてくれました。
さらに遡ると、元々は建築の道に進まれていた石川さん。やきものに転向するきっかけは明確にありましたか?
石川 : やきものじゃなくてもよかったんですけど、イチから最後まで自分で作りきれるものがやりたかった。建築の仕事では自分で作っている感覚が全く得られなかったんです。いとこが瀬戸市の訓練校に通っていたこともあって、やきものの懐の広さは少しだけ知っていたし、木工などとは違う総合的な物だと。土の可塑性も分かっていたのでやれる気はしていました。
10代の頃の「こういう大人になるんだろうな」という想像ってだいぶ裏切りませんか?いまの自分を見ると。良い意味でも。
平子 : 何にも覚えていない。こういう大人になるだろうって考えてたのかな。
石川 : 「なりたい大人像」はあったんですよ。『カウボーイビバップ』というアニメなんですけど。そのアニメの主人公たちがすごい好きで、実は会社を辞める時の一番でかい理由が、「このままやっていたら、俺、主人公たちにもしも会った時に対等に話せないな」って思ったんです。「あの人たちみたいにカッコよく生きてないな」って。それが大きかったですね。好きなことをやろう、と思って。
今は、その主人公たちに会えたら対等に話せますか?
石川 : 対等に話せるかは分かんないですけど、まぁまぁ一応やってますよ、って言えると思います。
平子 : それは素敵なストーリーですね。
石川 : 初めて言ったかもしれない。笑
平子 : 1月の展示は間に合いそうですか?(取材は12月下旬)
石川 : うーん、なんとか。笑
いつもギリギリで作られる方ですか?
石川 : もう、ギリギリっす。
平子 : 我々の初詣は「石川さんが間に合いますように」と願う。笑
長山 : 石川さんは大丈夫だと安心してます。
石川 : どうかな~。展示直前の薪窯は1月10日に焼くので追加で持っていきます。
平子 : ギリギリで間に合うのも産地の長所。
やきたてですね!
石川 : やきたてに意味があるのか。笑
平子 : 誰の目にも触れていない!
長山 : 現場でハマ擦ります。
たっぷりな座談会】
あの人から見た、陶芸家・石川裕信
陶芸家・加藤祥孝
石川くんと初めて出会ったのは15年ほど前、
職業訓練校在籍中の石川くんが就職先の見学か面接かで、私の勤務先の芳洲窯に偶然やってきたのでした。会って直ぐ、協調性や礼儀正しさなどで即採用!だったのを覚えております。これまた偶然にも、私の友人の従兄弟ということもあって何か縁も感じておりました。
工房も同じ曽木町ですし。出会った時からすでに良さげなモノを作っていたので、あまり心配もしておりませんでした。案の定、さほど時間もかからず売れっ子作家に……。
ご存じの通り人間的にもイイ男で、その上、手先が器用でなんでも作れてしまうので
時には石川建築、石川鉄工としても色々手伝ってもらいとても感謝しております。そんな石川くんですが、ずっとうつわ作りに本気出してないのでは?と感じておりました。もっと貪欲にやれば(やってたらごめんなさい)もっとイイもの作れそうなのにと。
でもここ数年は焼き締めや薪窯など意欲的に創作活動をしていて、いよいよ本気なのだと感じております。
これからの活躍が本当に楽しみです!今度アドバイスしてもらいますー。
PRODUCTS STORE 店長 長山晶子
私が初めて石川さんを知ったきっかけは、玄道具店さんでの企画でした。
バイヤーになりたてで作家ものの器にそこまで馴染みがなかったこともあり、
作家ものの器は敷居が高いと勝手に思っていました。
その殻を破るきっかけになった器のひとつが、石川さんの器。売場に並んでいた器の中で何か惹かれるものを感じたのを今でも覚えています。
その時、購入した小皿は今でも大事にしています。
というか、割りたくないので飾ってます……笑石川さんとお会いしたのはバイヤーになって数年後、今の上司の平子さんに工房に案内してもらった時でした。
出張当日に「石川さんの工房にご案内します」と聞いて、「あの、石川さん!?」と内心穏やかではありませんでした。もちろん、平静を装っていましたが……
その時の出張はほとんど、石川さんにお会いしたということしか記憶がありません。
それぐらい私にとっては、芸能人に会うぐらいの感覚でした。笑その後、前職のお店で石川さんの器を扱わせていただくことになり、
店のスタッフへのプレゼンはどの商品よりも熱が入りましたね。PRODUCTS STOREのオープンが決まった際も快く商品の提供をしていただき、
それだけでも十分ありがたいことですが今回個展をさせてもらえて、
過去の私が知ったら歓喜していることでしょう。