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杉山亜花莉 × PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会

01 マッサージの仕事に就きながら、江古田の陶芸教室に通う日々
02 偶然のなりゆきで、布目の作品が生まれるまで
03 やきものとヨガ 緊張感のない自由なあり方に向かって
04 これからの「あたたかな野望」のこと

<今回の参加者>
陶芸家 杉山亜花莉
株式会社ユープロダクツ 代表取締役 平子宗介
PRODUCTS STORE 店長 長山晶子
インタビュアー・編集者 笹田理恵

撮影 加藤美岬

岐阜県土岐市肥田町で制作をする陶芸家・杉山亜花莉さん。東京の巣鴨出身。多摩美術大学彫刻学科を卒業後、社会人経験を経て、陶芸を学びに多治見へ移住します。なぜ陶芸を志したのか。多治見市陶磁器意匠研究所へ入学するタイミングや布目の作品が生まれた経緯など、共通して「たまたま」という偶然性に委ねている杉山さん。少しくすんだ色の掛け合わせ、3種類の布目が織りなす練り込みの器は、杉山さんの人物像を表すようなやさしく柔らかい持ち味を醸し出しています。
今回は、2024年11月16日からPRODUCTS STOREで開催されている「松本寛司×杉山亜花莉 2人展」を前に、杉山さんの工房で座談会を実施。杉山さんが陶芸を始めるまでの道のり、作陶への向き合い方や、新しい「めりこみ」シリーズについて。そして、自身のライフワークであるヨガや未来像についても伺いました。今回もすっかり楽しくなって雑談が多め! 杉山さんの人柄を存分に感じ取れる座談会記事となっています。

【杉山亜花莉 × PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
01

マッサージの仕事に就きながら、江古田の陶芸教室に通う日々

長山 : こういったインタビュー取材は初めてですか?

杉山 : 初めてです。

平子 : 座談会なのでリラックスしてお話してもらえたら。亜花莉さんは東京都豊島区出身で、大学卒業後にやきものを始められたというご経歴ですが、やきものを志したのはどのタイミングですか?

杉山 : 大学在学中です。多摩美の彫刻学科で、やきもののカリキュラムはなかったんですけれど、卒業制作前に粘土でちょっと焼いてみたんですよ。彫刻だから型を取ったり流し込んだりするのがめんどくさくて。もうそのまま焼けたらいいなと思って、窯を貸してもらって焼いたものを作ってみたのが始まり。

大学で試しに焼いてみたのがきっかけだったんですね。その作品を機にやきものにのめり込んでいったんですか?

杉山 : 陶芸を始めるまで6年ぐらい空きました。卒業後は2、3年フラフラして、お金を貯めたりオーストラリアへ行ったりしていて、そろそろ仕事するか~と思ってマッサージを始めました。仕事はマッサージぐらいしか浮かばなかったんです。ルミネやアトレなどJR系の商業施設に入っているお店に勤めました。研修制度もあって整体やエステもやっていたんですよ。

長山 : そうだったんですね!

杉山 : マッサージの仕事を5年半くらい続けて、最後の1、2年で陶芸教室に通い始めました。

平子 : ものを作りたくなったからですか?

杉山 : そう、また作りたくなった。

創作欲が高まって、働きながら陶芸教室に通い始めたんですか?

杉山 : 江古田の陶芸教室に週3で通いました。職場には「陶芸を始めるので仕事は週3にします」って伝えて……いま考えるとよく通ったなと思うんですけれど。笑 すごくろくろにハマっていて上達したかった。いま思えば無心になりたかったのかなと思う。ろくろって余分な思考が無くなるじゃないですか。

平子 : 陶芸を突き詰めていった先で、多治見市陶磁器意匠研究所(以下、意匠研)が視野に入るわけですよね。もっと専門的に勉強したくなったからですか?

杉山 : そうですね、陶芸教室に2年くらい通ってから探しました。

長山 : それは作家になりたい気持ちが出てきたから?

杉山 : 作家になりたいとは思っていなかったですね。もっと研究したいという感じでもなかった。陶芸は熱中していた頃よりも少し飽きてきて、マッサージをこの先ずっとやるのもな……と迷っていた時期で。実家を出たいし、彼氏ともなんだかな~と、いろいろあって。笑

平子 : 正直なひと。笑

杉山 : 笠間か瀬戸、多治見にするかどうか半年くらい迷って一回試験を受けました。笠間が通って、意匠研にも願書を出して。でも、なんかやめちゃったんですよ。行こうと決めたけれど意匠研の試験前日に「すいません、やめます」って。急に嫌になっちゃって。

長山 :

杉山 : やめてから、さらに一年考えて、いろんなことが重なってやっぱり行こうと決めました。その時は笠間の募集が終わっていて、意匠研の二次募集しか残っていなかったんです。入学可能な年齢ギリギリのタイミングでした。

東京から岐阜に移ることへの抵抗感はなかったですか?

杉山 : うーん、なかった。行ってみて嫌だったら帰ってきてもいいし。むしろ卒業したら地元に帰って美術関係の仕事に就けたらいいな……くらいの考えで引っ越しました。でも、意匠研は同年代や年下、外国人の同級生などいろんな人がいてにぎやかで、友だちがいっぱいできて楽しかったです。

【杉山亜花莉 × PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
02

偶然のなりゆきで、布目の作品が生まれるまで

意匠研を卒業後、地元の関東に戻るわけではなく、自然と多治見で生活が始まったんでしょうか。

杉山 : 卒業する前に作家活動をしてみたいと思い始めて、それなら多治見にいた方がいいかなと。別に就職もなぁ……と思いながらやっていたら3RD CERAMICSさんに声をかけてもらったり、中学校のバイトがポンと入ってきたり、いろいろ決まってそのままという流れです。

長山 : 多治見のオープンシェア工房・司ラボに入ったのはどのタイミングですか?

杉山 : 自分の作品を作るために工房の確保をしようと意匠研を卒業する少し前に入りました。作家活動をするなら展示の機会が与えられた方が絶対いい。司ラボは、安いし近いし、意匠研のすぐそこにあったし、借りない理由がないなと思って。

平子 : 司ラボのオーナー・加藤貴也さんも「作家が産地に根付いてほしい」という思いでシェア工房を運営していて、3RDさんも作り手がやきものと接点のあるバイトに就けたらいい、というお話をされていました。みんなの思いが絡み合った結果、いまでも亜花莉さんが美濃で活動しているのは素晴らしい結果だなって。

長山 : この数年で多治見の中でも玉木酒店さんなど作品をお披露目する場所が増えていますよね。すごくいいタイミングで司ラボに入られたんですね。

美濃という産地内では工房があったり、身近な場所で展示できたりする状況が自然になりつつありますが特殊な状況ですよね。どれだけいいものを作っていても見てもらう場がない作り手も多い。

杉山 : 産地じゃないとシェア工房すらないですよね。どこの学校へ行くか迷っていろんな地域を見て回っていた頃も、多治見は活気がある印象でした。

いまは練り込みと布目の作品が亜花莉さんのアイコンになっていますが、どのように布目のスタイルを確立したんですか?

杉山 : 卒業制作で最後の3週間ぐらいで布目のものを作りました。布目は、その時にたまたまできたものだったんですよね。花器みたいなものを作って、それを続けてみたいと思って。その後、司ラボの伝手展(玉木酒店で毎年開催されている展示)で初めてマグを作って、それで仕事をもらうようになっている感じですね。

平子 : 卒業制作で布目に至った経緯としては何かが閃いたんですか?

杉山 : 色土を組み合わせて伸ばすときに、くっつかないように布を敷くんですよ。そのときの布目の表情が面白いなと思って。本当にたまたまですね。

平子 : 世の中に布目の作品はあるにせよ、亜花莉さんの器はキャラクターとしてすごく立っていますよね。オリジナリティを感じる。

試行錯誤を重ねて布目の表現にたどり着いたのかと想像していました。たまたま、という点に亜花莉さんらしさを感じます。練り込みで土そのものに色がついているんですよね?

杉山 : 土に顔料を混ぜて色をつけています。(発砲スチロールで保管している土を取り出す) ……なんか、お寿司のネタみたいですよね。笑

長山 : たしかに! 棒状の土はクッキーを焼く前の生地みたい。笑

杉山 : 色土が組み合わさった塊を作っていくところから始まります。土をスライスして重ねて、最後に組み合わせて、布目が消えないようにやさしくパン用の麺棒で伸ばしています。

独特な配色や組み合わせが亜花莉さんの世界観ですね。

長山 : 作品とご本人の印象が合っていますよね。作品に使っているのは好きな色ですか?

杉山 : 好きな色ですね。特に黄色やオレンジが好きですが、色の組み合わせを見ているのも楽しいし、ちょっとくすんでいるけれどカラフルな色の組み合わせが好きかな。

器に表情を生み出す「布」の種類は決まっているんですか?

杉山 : 布はコーデュロイ、ニット、麻の3種類で、組み合わせ方を変えながら作っています。いちばん最初に、これがいいなと思った布をいまでもずっと使っていますね。でも、いろいろ試してみてもいいですよね。

長山 : 布も好きだったんですか?

杉山 : 元々、布は好きでしたね。洋服も好き。東京で陶芸教室に通う時に、織物教室かどうか迷ったくらい。

今後、亜花莉さんは自分のスタイルを確立していく方向ですか? それとも、もっといろんなことを試していきたい気分ですか?

杉山 : いまは、いろいろやりたい時期です。今回の展示は、勝手ながら布目とはちょっと違うものも作っています。

平子 : PRODUCTS STOREを新しいものを発信できる場に使ってもらえるとうれしいです !

杉山 : 新作は、めりこみシリーズです。 陶芸家の河内啓さんが命名してくれました。練り込みをめり込ませる。だから、「めりこみ」。

長山 : めりこみ、かわいいです! 2年前に今回の展示をご依頼したときも、亜花莉さんから「作風が変わるかもしれない」とお聞きしていました。お店にも亜花莉さんのファンの方がよく来られるので、新しいシリーズも見てもらえたらうれしいですね。

【杉山亜花莉 × PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
03

やきものとヨガ 緊張感のない自由なあり方に向かって

平子 : 作家さんの中には、作ることが何よりも好きだから世に出した後のことは興味が薄い人もいれば、自分の作品が使われているシーンをすごく知りたい人、使い手とのコミュニケーションが創作活動に反映される人などいろんなタイプの方がいますが、亜花莉さんは自分の作品を使う人に対してどんな気持ちを抱いていますか?

杉山 : うーん、あまり深く考えていないですね。好きにどうぞ、という感じ。

平子 : 率直なひと ! 自分の納得がいくものを作ることに重きをおいていらっしゃるんですね。

杉山 : うーん、うん……それもあまり考えていないです。笑 必死に仕事をこなしている感覚もあります。

作品づくりにおいて楽しさがベースにあるとは察しますが、大変だと感じる瞬間もありますか?

杉山 : 布目の作品に関しては同じものをたくさん作るのがしんどくなってきていて。ちょっと変えたいですね。いろいろ変えながら楽しい瞬間があるし、求めてくれるのもうれしいからやらせてもらっているんですけれど、他のものもやっていきたいなぁという思いがあります。

平子 : 自分のモチベーションをうまく作りながら続ける。大事なことですね。

杉山 : 皆さん、どうしているんだろう? 作家同士で仕事の話はあまりしないからなぁ。

平子 : ちなみに、亜花莉さんが好きな作家さんはいらっしゃるんですか?

杉山 : パッと浮かんだのは有賀正季さんですね。絵画もされている方で、動物の作品をたくさん作っています。増田豊さんの作品も好きです。

平子 : どちらも瑞浪市の作家さんですね。なるほど面白い!

杉山 : 自由で緊張感のないものが好きです。憧れますね。

平子 : いま現在の仕事は、自分の作品づくり一本という状況ですか?

杉山 : 一本ではなく陶芸教室の先生もやっていて、名古屋市守山区のレンタルスペースでタタラと手びねりを教えています。あと、ヨガも教えたりしています。

あえて、自分の作品づくりだけではない働き方を選んでいるんですか?

杉山 : やりたいようにやった結果ですが、いまはこの状況がちょうどいいですね。

平子 : いいですよね。ヨガと陶芸は相関関係にある気がする。

長山 : 亜花莉さんはヨガのイメージが強いです。どんなきっかけでヨガを始めたんですか?

杉山 : 以前は、東京でホットヨガをやってみたり、通ったりやめたりを繰り返していました。多治見に来て2年目の途中くらいでupalaに通い始めましたね。いまはヨガを教えるのも面白いです。慣れている最中ですけれどヨガの組み合わせ方を考えたりするのも楽しい。マッサージをやっていたのもあって、皆さんにリラックスしてほしいという気持ちがあります。

平子 : 亜花莉さんの学ぶヨガはフィジカルと思考の両面があるわけですよね。

杉山 : 飯田不久(ふく)先生のフクヨガですね。そういったヨガは初めてだったけれど共感しました。元々、私は周りと比べて自分の内面を見る方だった気がします。

多治見で不久先生からヨガを学んでから変わったことはありますか?

杉山 : 漠然とした不安はなくなりました。

長山 : 元々は、心配症だったんですか?

杉山 : こうなりたいという目標もあまりなかったからかな。漠然と、結婚して子どもがほしいという気持ちはあったけれど予定もない。仕事をしても何をしていてもいいけれど、どこに向かえばいいんだろうみたいな不安ですね。

平子 : いまは、日々の中でヨガの学びが生きているんですね。

杉山 : ありがたいことですね。不久先生は何でも対等にしゃべれるし、感情を何でも出せる相手。先生だし、友だちでもある。いまの私には必要な存在ですね。

【杉山亜花莉 × PRODUCTS STORE
たっぷりな座談会】
04

これからの「あたたかな野望」のこと

平子 : お話を聞いていると、亜花莉さんはこの地域に縁があった気がしますよね。あとはお人柄で、いろんな人に受け入れられている。やきものだけにとどまらない素敵なつながりが生まれていますが多治見での生活は楽しいですか?

杉山 : うん、まあまあ楽しい。

平子 : 野望はないですか?

杉山 : 野望、野望……? 家庭が欲しいです。陶芸家になりたいという夢はなかったけれど、家庭に対する願望が一番にありました。

亜花莉さんの理想の家庭像はあるんですか?

杉山 : 子どもを生みたいですね。そろそろ動かないと、ってよく言われますけど。笑 理想はパートナーがいる家庭だけど、旦那さんがいないお母さんの話を聞く機会もあって、絶対に夫がいなきゃいけないわけじゃないのかなと最近は思っています。

長山 : 子どもを育ててみたいという願望なんですかね。

杉山 : どこか「子どもがいること=幸せ」と思い込んでいるのかもしれないですけれどね。不久先生から「子どもは何でも知っていて、そのままで大きくなる。ただアシストすればいいだけだよ」という話を聞くんです。それもやってみたい。きっと自分が想像しているよりもずっと大変だろうし思うようにいかないはずだけど、そういうのも自分にいい影響がありそうだなと思っています。

平子 : すてきなことですね。

長山 : もしお子さんが生まれたとしても、陶芸は続けたいですか?

杉山 : 一旦は子どもに集中したいです。できるか分からないですけどね。

平子 : 一応、パートナーの条件を聞いておきますか。

杉山 : 条件?笑 そうですね……おしゃべりじゃなくていいけれど陽気な人ですかね。何事も寝たら忘れるぐらい深刻じゃない人。でも、理想を追い求めてもしょうがないので……完璧な人はいないですよね。笑

平子 : 仕事柄、陶芸作家さんのご夫婦にお会いすると、必然性のあるパートナーシップを感じていたんですよ。すごく二人のバランスがいい夫婦が多い。でも他人が一緒に生きていくのって、お互いのたゆまぬ努力で成り立っているんですよね。たとえ相性が良くても、それに甘んじると上手くいかないのかなって。

杉山 : みんな努力されているんですね~。

平子 : きっとそういう理解は大事ですよね。その上で、究極はどんな相手でもいいのかもしれない。

杉山 : お互い最低限の何かがあれば。

平子 : ……今回も話の脱線は止まりません。笑 11月16日からの展示よろしくお願いします。新作のめりこみシリーズも楽しみにしていますね !